contact

MENU

2021.12.20

特集「熊本県立劇場館長姜尚中×熊本現代美術館館長日比野克彦 対談」

カテゴリーが混ざり合い新しいものが生まれる、時がきた

 2021(令和3)61日、熊本市現代美術館(以下、現代美術館)の第4代館長にアーティストである日比野克彦氏が就任しました。
熊本県立劇場と現代美術館は、2009(平成21)年にスタートした、オハイエくまもとが主催する「とっておきの音楽祭」をきっかけに、熊本地震後のこころの復興支援事業「アートキャラバンくまもと」での、ミニコンサートやワークショップの共催など関係を築いてきました。熊本地震から5年。復興の次のフェーズに向けて、劇場と美術館が手を組み、地方都市熊本から発信できることはなにか。コロナ禍を経て、アートはどう変容していくのか。両館長が大いに語り合いました。

 姜:コロナ禍の影響で、オンライン配信をはじめ、アートとの新しい向き合い方、発信の方法が広がり、それがスタンダードになりました。

 日比野:行きたいけど、行けない。悩んでも、はっきりした答えがでない。それはアートが育つ時間でもあります。この〝もやもや″とした、わからないものを受け取る力を人間は持っていると思います。コロナ禍で、配信という方法を手に入れて世界中で距離に関係なくアートにふれることができるようになった一方で、現場の温度や湿度を受け取りながら、空気の振動のようなものの大切さに気付くこともできました。これを機に、音楽、絵画、映像などのカテゴリーが混ざり合い、新しい表現が生まれるのではないかと、楽しみでもあります。

 姜:アートのあり方は、ブリコラージュのようなもの。そこにあるものを組み合わせることで、新たなものが生まれる。コロナ禍によって、これから何が変わっていくのか、楽しみな状態ですね。以前、ユーミン(松任谷由実)と対談したことがあります。彼女は美術出身らしいですね。色彩を音で、音を逆に色彩で表現するなど、美術から発する音楽について盛んに話されていました。美術から音楽家が生まれるようなことは、総合芸術、複合芸術においてはあることなのでしょうか。

 日比野:70年代、80年代、大学生の頃のユーミン、荒井由実さんが出てきた頃は、作家の村上龍さんや、俳優の竹中直人さんに代表されるように、美術大学生が「自分たちの時代をつくるんだ」といった気概を持った時代でした。当時高校生で、それを見ていた私には、芸術がとてもキラキラしたものとして見えていました。美術の土壌から、音楽、文学、パフォーマーなどが生まれる背景には、プロモーターやアートコミュニケーターのような立場で、次の時代を発信する若者を発掘して、支援する動きがありました。演劇も、音楽も、文学も、哲学も、カオスのような。もう楽しくてしょうがない時代でしたね。その後にバブルがはじけて、経済が落ち込んで、文化がなくなったか、といったらそうではなかった。70年代、8年代の大きなエネルギーから、90年代の長い〝もやもや″期を経て、21世紀の「社会に貢献するアートが必要だ」という考え方につながっていくわけです。

 :日本は70年代、80年代の文化を経て、90年代、そして今があるわけですね。あの時代のことを身体感覚で記憶している人と、まったくその時代のことを知らない若い世代では、アートに対する考え方が違うように感じます。
 この数年間は、熊本地震があり、水害などの災害があり、取り繕うことで精一杯でしたが、やっとここにきて外側に発信して、ケミストリーが生まれるようなことができそうだと予感していました。そんなタイミングで、日比野さんが現代美術館の館長に就任されました。美術館と劇場でいろんなコラボができるんじゃないか、と。日比野さんのアイデアがあればお聞きしたいです。

 

 日比野:2007(平成19)年に熊本で展覧会をした時、市街地のストリートでフェスがあって、パフォーマーがたくさんいた。熊本には音楽や身体をつかった表現をする人が多く、音楽と美術を分け隔てなく表現する気質の人がたくさんいるように感じます。例えば、劇場のステージで美術の展覧会を、美術館の展示場では演奏会を行うといったプログラムがあれば、とてもわかりやすいコラボになると思います。以前、サッカーを応援するスタジアムとミュージアムをくっつけたプロジェクトを企画しました。サッカー好きが美術館で応援フラッグをつくって、スポーツに興味のない人も自分でつくったフラッグを持ってスタジアムに応援に行く、というもので、それは今でも続いています。そのように劇場と美術館のコラボを実現するといいかと思います。打ち上げ花火ではなく、定期的にビジョンを持ってやりたいですね。

 姜:熊本のお城を見てサッと帰るのではなく、美術館と劇場があって、そこでワクワクするようなものがある、という熊本に行く動機になるようなものをつくっていきたいですね。 美術館、劇場という固定概念や、仕切りを壊していって、異種領域を無理矢理くっつけるのではなく、地方都市熊本でクロスオーバーが生まれていく。そうすることで、多義性が出てくるのではないかと思います。それが面白いですよね。

 日比野:今日の対談は、美術館と劇場がやります、という宣言になりました。

 姜:その時がきた、という。

 

対談はケンゲキアートチャンネルで配信中!!
【館長対談動画】姜尚中(熊本県立劇場)×日比野克彦(熊本市現代美術館) – YouTube

 

右)熊本市現代美術館館長 日比野克彦[ひびのかつひこ]
左)熊本県立劇場館長 姜尚中[かんさんじゅん]

SHARE

contact