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2023.09.20

特集「ようこそ広場へ【県劇盆踊り】」

老いも若きも、ごいっしょに。
輪になって踊って、唄って、笑って。


2016年8月24日、その年の4月に発災した熊本地震からのこころの復興事業の一環として県立劇場で開催した「県劇夏祭り<にゅ~盆踊り>」。熊本地震の後、県立劇場も大きな被害を受け、安全性を確保できるまで一時閉館し、復旧工事を行っていました。また、地域の人たちは生活の復旧に向けて日々に忙殺され、中には避難生活を余儀なく続けている人も多くいました。「文化芸術ができることはないか」と模索しながら、アーティストと熊本の被災者をつなぐアートキャラバン事業を進めていた県立劇場は、開館の目処がたった8月に人々が劇場に集い、楽しい場の空気を共有できる企画を立ち上げました。それが、劇場のエントランス前で開催した「県劇夏祭り<にゅ~盆踊り>」でした。
当日は、ご近所の方から、遠くからお越しいただいた方まで、たくさんの地域の人たちで賑わいました。円陣を組み、揃いの振付で、音楽や太鼓のリズムに合わせて踊る。一体感と高揚感が混じり合った熱が会場を埋め尽くし、その翌年からは「県劇盆踊り」とタイトルを変え、夏の風物詩として毎年開催されるようになりました。2019年は大型台風の襲来によって中止となり、2020年からは新型コロナウイルスの流行でしばらく開催を見送っていましたが、今年2023年8月15日、5年ぶりに「県劇盆踊り」が演劇ホールホワイエをメインステージに開催されました。

地域に伝わる民族舞踊、
みんなで踊れば血が騒ぐ

8月15日は朝からスタッフ総出で「県劇盆踊り」の会場づくりが行われました。盆踊り会場となる演劇ホールホワイエには演奏者のステージである櫓(やぐら)を組み、サブステージのコンサートホールホワイエには、輪投げ、射的、スーパーボールすくいなどの縁日コーナー、そして地域のアーティストによるパフォーマンスが繰り広げられるステージを設置。慌ただしい準備の時間にも、久々に会う親戚や友だちを迎え入れる前のような、なんともいえないそわそわとした高揚感が漂っていました。

日中の暑さが残る17時。メインステージはゲスト出演者である新感覚邦楽エンターテインメント集団「あべや」の阿部金三郎、銀三郎の兄弟による津軽三味線の演奏で幕を開けました。台風7号の影響で、急きょ前日から熊本入りした「あべや」のメンバー。津軽三味線、唄、尺八、舞踊、太鼓の構成で、時折軽快なトークで会場を沸かせながら、民謡の世界を凝縮したステージが繰り広げられました。途中休憩をはさみながら、民族舞踊の中山芳保会とともに「火の国音頭」「炭坑節」、牛深ハイヤ保存会と「牛深ハイヤ節」が演奏され、踊りのレクチャーを受けながら参加者は会場で輪になって踊りました。指導する中山芳保先生の横で、突然小さなお子さんが踊り出す微笑ましい一幕も。まさに、老いも若きも入り交じって、〝血が騒ぐ〟ひとときでした。
今年の「県劇盆踊り」は、初の試みとして盆踊りステージ以外にも、サブステージのコンサートホールホワイエでは、地元のアーティストによる書道パフォーマンス、コント、朗読、落語のステージ。そしてエントランス前の屋外ではキッチンカーがずらりと並び、飲食スペースが開放されました。また、当日は浴衣姿で楽しんでいただけるよう、会場には浴衣レンタルスペースを設けました。カランコロンと下駄の音がホワイエの空間に鳴り響き、三味線、唄、太鼓、尺八の音とともに、まるで特別な音楽会のようでもありました。

 

【ゲスト出演】新感覚邦楽エンターテインメント集団「あべや」
〈津軽三味線〉阿部金三郎、阿部銀三郎〈唄〉根本麻耶〈舞踊〉安藤龍生〈尺八〉佐藤公基

コロナ禍が落ち着き、ようやくお祭り騒ぎができるようになったこの夏、同じメンバーで別の地域でも演奏する機会も増えました。地域の民俗舞踊を、地域の人たちが踊り、楽しんでいる姿を櫓の上から見ていると、民謡の底力とともに、熊本という土地の底力を体感しました。屋外ではなく、ホールのホワイエに櫓を組み、外の天気や暑さを気にせずに、気軽に参加できるのがとても素敵だと思いました。演奏する私たちにとっても、みなさんから発される熱量を感じ、会場と一体となって楽しむことができ、特別な時間をすごすことができました。劇場という、ふだんでは敷居が高いと感じられるところに、こうやって人が集まり、劇場の中で盆踊りを楽しむとても良いイベントに参加させていただきました。

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