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2021.12.20

県劇スタッフリレーコラム№11

「今日の体温は何℃でしたか?」

 8月某日。私は今、東京芸術劇場のリハーサルルームにいる。
来年25日公演予定の全国共同制作オペラ歌劇「夕鶴」の制作に立ち会っている。私の朝は、他の人より早く劇場に入り、部屋の鍵を開けることから始まった。サーキュレーターを起動させ換気を行い、CO2濃度計を確認。しばらくすると、関係者が続々と部屋に入ってきて、念入りに拭き掃除をして持ち場のチェックを始める。少し落ち着いて各々が仕事を始めると、キャストが集まり始め、私は声をかける。

「おはようございます! 今日の体温は何℃でしたか?

 ふと昔のことを思い出した。劇場で働き始め、コンシェルジュとして主催者サポートを始めたばかりで、緊張で会話もままならない頃。公演当日の朝、主催者にどう話したらよいのか迷っていたことや、その時一番有効だった「今日はいい天気ですね」の一言。この変哲もない会話のテンプレートに、どれだけ助けてもらったことか。
それから長い年月を経て、「今日はいい天気ですね」は勇気を出して声をかけるための言葉から、公演の成功を願う言葉に変わり、コロナ禍の今はその役目を「今日の体温は何℃でしたか?」が担っている。

35.6℃ですね」「あれ?今日はものすごく低い」不安そうなキャストの声で我に返り、体温を記録しながら笑顔で答えた。「昨日から急に寒くなりましたもんね、大丈夫ですよ。あとでもう一度計ってみてください。いつも通りに戻っていますよ」「昨日寒かったもんね」なんて言いながら、昨日食べた物やお薦めの舞台の話など、気持ちの良い会話が続いた。稽古が始まると、今までのオペラでは見たことのないような演出家岡田利規氏の斬新な演出アプローチと、互いを信頼し、良い表現を創ろうとするアーティストたちやスタッフの熱とが相まって、稽古場はとてもいい雰囲気だった。「きっとこの公演は良い千秋楽を迎えられるだろうな」。

「夕鶴」は、熊本公演が千秋楽。ぜひ、みなさんのその目と耳で、最後まで見届けてください。 

事業グループ
濱野史織[はまのしおり] 

 

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