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2021.12.20

『全国共同制作オペラ「團伊玖磨/歌劇『夕鶴』(新演出)」東京初演レポート』

『全国共同制作オペラ「團伊玖磨/歌劇『夕鶴』(新演出)」東京初演レポート』

熊本県立劇場、東京芸術劇場、刈谷市総合文化センター(愛知)の三者で制作する、全国共同制作オペラ『夕鶴』が103日に東京芸術劇場にて開幕しました。 
全国共同制作オペラとは、全国の劇場・音楽堂、芸術団体等が高いレベルのオペラを新演出で制作するプロジェクト。今回は熊本に縁のある作家木下順二の戯曲を原作とした、團伊玖磨の歌劇『夕鶴』に、世界的に活躍する劇作家・演出家の岡田利規(熊本在住)が大胆な新演出を施しました。初演後の反響も大きく、話題作として注目を浴びている本作について、初演レポートが届きました。

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全国共同制作オペラ「團伊玖磨/歌劇『夕鶴』(新演出)」が108日に東京・東京芸術劇場コンサートホールにて開幕した。 
本公演は、2021年に没後20年を迎えた團伊玖磨作曲のオペラ「夕鶴」を、岡田利規の新演出で立ち上げるもの。「夕鶴」は、木下順二の戯曲に一切手を入れないことを条件にオペラ化された作品で、岡田にとって本作が、初のオペラ作品となる。出演者には長年つう役に憧れていたという小林沙羅をはじめ、与ひょう役の与儀巧、運ず役の寺田功治、惣ど役の三戸大久、さらにダンサーの岡本優、工藤響子、合唱団の子供たちが名を連ねた。また東京公演の指揮は辻博之が、愛知公演と熊本公演の指揮は鈴木優人が務める。 
舞台には、台本に記された〝雪深い村はずれの一軒のあばら家″というイメージとはかけ離れた、モダンなキッチンとリビングが設えられ、部屋の中央には見るからに頑丈そうな扉が見える。2階には植物などが配されたゆったりした空間が広がり、リゾート風のデッキチェアが置かれた。また部屋は高い壁に囲まれていて、上部の窓からは青空がのぞく。そこへ、ふてぶてしい態度で子供たちが姿を現し、カラフルな照明に照らされながら思い思いのポーズを決めた。続けて舞台の奥から姿を現した彼らは、アニメ風の表情が描かれた大きな風船を頭上に掲げ、今度はいかにも子供らしい声』で童歌を歌い始め…… 


(従来の「白」のイメージとは違う漆黒のドレスに身を包むつう(小林沙羅))

9月末に東京で行われた本作の会見で、岡田は「『夕鶴』は、イノセントな存在であったつうが、資本主義にズブズブになっていく与ひょうたちによって資本主義に絡め取られていく物語。しかしつうをイノセントな存在、つまり資本主義というシステムの前にいる状態ではなく、ポスト資本主義にいる存在として描き、資本主義を乗り越えた存在であるつうが、我々にその問題を突きつけてくる、という形で今回は作品を立ち上げたいと思っています」と語っていた。果たして岡田演出版の「つう」は、白い肩が露わになった漆黒のドレス姿で悠然と姿を現すと、抑制された動きと表情で周囲を圧倒する。〝生気を感じさせない動きや、人間たちのやり取りに困惑してぐるりと首を巡らせる様は、つうが明らかに異質な存在であることを感じさせた。
そんなつうの前で、どこか子供っぽい表情を見せながら右往左往する与ひょう、成金風の出立ちでコミカルな立ち回りを見せる運ずと惣ど、大人たちのやり取りを舞台上の〝客席″でじっと見つめている子供たちが、『夕鶴』の作品世界を立体的に立ち上げていく。 

2部では、1部で抑えられていたつうの思いが、歌と共に爆発。変化していく与ひょうに対する戸惑いと憤りが、強い歌声となって客席に向けられる。ただし岡田版つうは、与ひょうに恋すがるのではなく、〝金の虜になっていく与ひょうを、蔑みにも似た憐れみの目線で見据え、鋭く突き放す。しかしある覚悟を決め、与ひょうが熱望する布を織り上げたつうは、2人の蠱惑(こわく)的なダンサーと共に、機織り部屋の重たい扉を開け放ってド派手に登場した。シルバーのドレスに身を包んだつうは動くたびに光を放ち、悲壮感は全くなく、むしろ神々しさを感じさせる。またつうが過去を懐かしむように「あんた」と優しく呼び掛けると、そのすぐ横でダンサーたちが腰に手を当てた強い動きやリップシンク、あるいは涙を拭うような仕草を見せ、つうの言葉の奥にあるものを垣間見せた。やがてつうとダンサーたちは、自らの意志で毅然と力強くその場を去り、空の彼方へと豪快に消えていくのだった。 


(左から三戸大久(惣ど)、与儀巧(与ひょう)、寺田功治(運ず)劇中を彩る鮮やかな衣装にも注目)

東京初演を終えた岡田は「日本のオペラを代表するとされている作品をわたしたちの生きているこの時代のためのものとするために、文脈化を施す。それは必要なこと、きっといつか誰かがやるはず(べき)のこと。それをやるチャンスがたまたまぼくに回ってきた、であればその務めをしっかり果たそう、の思いでつくりました」と創作への思いを述べ、「指揮者、ソリスト、ダンサー、合唱のこどもたち、スタッフ――座組の全員とコンセプトを共有し、体現するための時間をかけてこの『夕鶴』を形にできたことに、誇らしさと感謝と安どを感じています。オペラまたやりたいです」とコメントした。ダンサー・振付の岡本は「岡田さんから発信されたコンセプトの中で我々は生き、実現する事とその場を生きる事に快楽を得ながら、今この時代の『夕鶴』を伝えたいです。立場と役割のコントラストが、音楽に寄り添い、全てを体感していただきたい作品。きっと心に残るモノになります。ご来場お待ちしております」と思いを述べている。 
全国共同制作オペラ「團伊玖磨/歌劇『夕鶴』(新演出)」はこの後、18日に愛知・刈谷市総合文化センターアイリス大ホール、25日に熊本・熊本県立劇場 演劇ホールで上演される。 

取材・文:熊井玲(ステージナタリー)
撮影:サラ・マクドナルド

 

◎チケット販売中
夕鶴
日時 2022年2月5日(土)/開場 13:15、開演 14:00
会場 熊本県立劇場 演劇ホール
S席 8,000円 A席 6,000円
※25歳以下、障がいのある方は3,000円引き
お問い合わせ 熊本県立劇場 096-363-2233

 

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