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2019.09.20

特集「劇場のコンシェルジュ」

その場、その時にしか味わえない日常の中の〝非日常〟を陰で支える。

熊本県立劇場には、コンシェルジュがいます。コンシェルジュ、と聞けば、ホテルや百貨店、レストランなどでお客様からのさまざまなリクエストに対応する接客スタッフを思い浮かべると思いますが、「劇場」と「コンシェルジュ」はなかなか結びつかないかもしれません。ホテルや百貨店などのコンシェルジュは、お客様のために、あらゆる手を尽くしてリクエストに応える接客のプロフェッショナルです。

一方で劇場のコンシェルジュはお客様の前に登場することはあまりありません。もし、お客様の前にいたとしても、きっと気づかれないと思います。劇場のコンシェルジュは、劇場に足を運んでいただいたお客様の目の届かないところで、催事の主催者や、ホールの利用者のリクエストにお応えする運営面でサポートしていくスタッフのこと。主催者や利用者とマンツーマンで、陰で手となり足となり支えていく役割を担っています。今回の「ほわいえ」の特集は、いつもは表に出てこない県劇の劇場コンシェルジュに光を当てて、その仕事についてご案内してまいります。

公演の感動につながるコンシェルジュの役割。

公演ごとに専属のスタッフを配置するコンシェルジュサービスを、熊本県立劇場がはじめたのは2006年のこと。導入後12年が経っていますが、このようなサービスを行っているのは全国の劇場でも珍しく、導入当時は九州において唯一の施設でした。通常の劇場では、主催者や利用者との打ち合わせを舞台スタッフが行いますが、コンシェルジュサービスは、ひとつの公演に対して、ひとりの専属スタッフが、舞台まわりだけでなく、申請や運営面でのサポートを行います。全国的に見ても県劇は先駆けてサービスを導入しているので、導入を検討している各施設からの研修や見学が後を絶ちません。

現在、コンシェルジュとして公演をお世話する職員が6人常駐しています。具体的な役割は、コンサートホール、演劇ホールを利用される方に対して、公演までの各種申請などのアドバイス、広報、受付まわりのサポート、代行サービスの手配、危機管理の対応など幅広い情報を提供し、その段取りを支援することです。担当となったコンシェルジュが公演当日までずっとサポートするので、主催者や利用者にとっては安心して公演の運営に集中していただくことができます。


(担当コンシェルジュは公演内容をしっかり把握することが求められる)

6人のコンシェルジュのうち、唯一の男性スタッフである池島茂伸は、県立劇場の職員として入職した2018年からコンシェルジュとして数々の公演をサポートしてきました。「コンシェルジュは公演の主催者や利用者の一番近くで公演までの準備を見ていきます。わずか数時間の本番のために、何ヶ月も練習を重ね、長い期間をかけて準備される方たちをサポートしていると、出演される方たちのいわゆる人生の中の印象的なシーンに関わっていると実感します。それが、私にとっても刺激になります」とコンシェルジュの仕事の醍醐味について語ります。


施設サービスグループ主任 池島 茂伸[いけしま しげのぶ]

県劇のコンシェルジュサービスの特徴として、すべての公演について、担当のコンシェルジュが催事の記録である〝カルテ〟を残していくシステムがあります。これは、次の機会にどのスタッフが対応しても、以前の公演の内容、その準備の手順などが理解できるようにする情報共有システムです。12年間で積み重ねてきたコンシェルジュサービスは、このカルテによる情報共有によって、より充実したサービス提供につなげています。「舞台芸術を広めていくためには、もっと多くの方に県劇を利用してほしいと思います。そのサポートをするために、私たちコンシェルジュはいます。初めての方でも、使い方、申込みの方法など、いろんな点でアドバイスができますので、まずは気軽に相談してください」。

細かなことの積み重ね。それが〝非日常〟をつくりだす。

演劇や音楽の公演は、日常の中の〝非日常〟。その場、その時間でしか味わうことができない感動を、会場に居合わせた人たちが共有できる〝非日常〟の空間です。主催者や利用者が感動的な場、時間を、会場のお客様に提供できるよう、安全に、そして確実に、問題なく、公演の運営をサポートするために劇場のコンシェルジュは存在します。「例えば、スモークを使用する演出がある場合、火気使用申請を出す必要があります。これをうっかり忘れたら、大事な場面でスモークが使えなくなることになります。感動の場面を生み出すためには必要なものなのに、です。公演の内容によって提出すべき申請書類はかなりの数があるものです。公演内容を把握している専属のスタッフがいれば、申請のタイミング、必要書類についてのアドバイスが事前にできます」。 細かなことの積み重ねが、公演の成功につながり、〝非日常〟の感動を生み出します。「公演当日の受付まわりのサポートも私たちの仕事のひとつですが、その際に公演を待つお客様の一人ひとりの表情を見ることができます。これからはじまる公演を前に、みなさんワクワクした、期待いっぱいの顔で待たれています。その様子を見ると、期待に応えられるように主催者の方たちが公演に集中できるような環境をお手伝いしたいと思いますし、自分自身もその列に並んで客席で見てみたい、という気持ちにもなります。その感動のシーンを多くお手伝いすることで、劇場にたくさんの方たちが足を運んでくださるような、また訪れたいと思えるような場づくりをしていきたい。そして、熊本が盛り上がってくれたら、と思います」と語る池島。これは、劇場のコンシェルジュ、そして県劇のスタッフすべての共通の想いでもあります。

 

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