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2019.12.20

寄稿「チェコ・フィルハーモニー管弦楽団」

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 2019年10月29日 コンサートホール

チェコ・フィルハーモニー管弦楽団には他のオケに譲れない持ち曲があるように思う。同郷スメタナが作曲した《我が祖国》がそれだ。

これを引っ提げてチェコ・フィルが県劇にやってきた!

6曲からなる連作交響詩は、第2曲の〈ヴルタヴァ(モルダウ)〉が有名だけれども、他の曲もチェコの伝説や自然、歴史がうたわれる。しかし全曲通して演奏されることはあまりない。今回のツアーでも東京公演と熊本のみ。東京公演はその他の演目も演奏しているから、自分たちの音楽である《我が祖国》だけを演奏したのは熊本だけだ。

木の香り漂う天鵞絨のような弦楽器とそれを絶対に汚さない管打楽器との調和誇るチェコ・フィルが長めの残響を伴う暖かい響き香る県劇でどんなドラマを生んだのか。

音による奏者たちの自発的な対話が交わされるのをいくつも目の当たりにし、情緒に溢れ、ときに慈悲深く、ときに威厳を持って、またときに咆哮する魂の叫びとなって県劇のホールを響きの洪水で埋め尽くした。そしてロシア出身の指揮者ビシュコフはオケの音楽性を最大限尊重しつつ曲の構造を立体的に浮かび上がらせる。ホールとの相性も抜群。チェコ・フィルのホームグラウンドで聴いている錯覚さえ覚える、渾身の名演奏となった。

これを県劇で聴けたことはなんと幸せなことか。これほど特別なイベントに出会えることは滅多にない。次いつ出会えるかもわからない。しかしホールに足を運ばなければ出会えない。さぁ、また県劇に足を運ぼうではないか。

熊本大学大学院
教育学研究科准教授
瀧川 淳

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