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2020.06.20

寄稿「人と人をつなぐ県劇のアウトリーチのこれから」

人と人をつなぐ県劇のアウトリーチのこれから

間近で見る楽器の輝き、手に残る音の響き、そして初めて出会う名曲の数々にわくわくドキドキを隠せない子供たち。彼、彼女たちの豊かな芸術体験に県劇のアウトリーチ事業はなくてはならないものだ。

これまでの活動について私が見た限りを総括すると、プレイヤーのオーディションに始まり、プレイヤーの養成から活動の実施まで必要なフローが確立されている。実施前の学校との打ち合わせも実に入念。またプログラムの枠組みが完成されているからこそ、アーティストたちは実際の活動を淀みなく進めることができる。そしてそこに生まれる余裕に甘んじることなく自分たちの良さを発揮する。なによりアーティストたちの演奏は質が高い。

このように長年の実績が蓄積された県劇のアウトリーチは、すでに成熟の域に達していて、今あるものを継承しつつ、さらなる高みを目指す時期にきているように思う。

以下は、今後の発展に期待する私の個人的な希望である。

学校におけるアウトリーチ活動では、これまで通り「異質を味わう空間」を大切にしながら、学校の年間指導計画への位置付けを考慮してみてはどうだろうか。そのためには学校側との入念な打ち合わせによるプログラム開発が必要となるが、子供たちの体験は学びへと確実に深化するだろう。次に参加型アウトリーチを取り入れることを提案したい。つまり「音楽を聴く」から「音楽をつくる」への転換だ。音楽をつくる体験は鑑賞や演奏活動を深める重要なきっかけであり、アーティストたちの演奏をより深く味わうことができるようになるだろう。最後に、演劇アウトリーチを実施してはどうだろうか。県劇には立派な演劇ホールがある。演劇ファンを増やす意味もあるが、自分を表現することの重要性が増す中、子供たちが演劇的表現に接することのできる機会があると良い。

音楽は心の栄養であり人と人を結び、また演劇は自分の心をうまく表現する。今の自粛生活後、市民に一番必要なものはこの2つではないだろうか?ホールの外へ出て、これらを提供できる県劇アウトリーチ事業は今後益々重要なものとなる。

熊本大学大学院准教授
音楽教育学
瀧川 淳

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