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2020.06.20

特集「県劇アウトリーチ事業~劇場を飛び出して、文化芸術を届けよう。~」

泣いたり、怒ったり、笑ったり。たった数時間で感情の動きを体感できる舞台。おなかの中までも響きわたるような音の感動に包まれるコンサート。そして、隣の人とその感動をわかちあう喜び。新型コロナウイルスの感染拡大により、舞台・音楽の鑑賞の機会が制限されているなか、文化芸術は〝生きていく〟うえのひとつのエッセンスとして、必要不可欠なものであることを実感された方もきっと多いはずです。全世界の劇場・ホールから、一時的に拍手喝采が消えたなか、劇場としての役割はなにか、文化芸術を心の糧としてどう届けていくのか、アーティストへの支援をどのように行うのか。劇場という箱から出て、文化芸術を広める〝広場〟としての役割が、県立劇場にとって今後ますます必要とされると実感しました。今回の特集では、県劇の〝広場〟を象徴する取組みとして、これまで15年以上にわたり続けてきた「県劇アウトリーチ事業」についてご紹介します。


(アウトリーチの活動では、プロの音楽家の演奏を聴き、好奇心があふれだす子どもたちの姿がよく見られます。)

子どもたちに、本物の〝音〟を届けたい。劇場からの出前授業、アウトリーチ。

劇場の役割として、ホールでの演奏や舞台を企画し、実施することがありますが、地理的な条件や、さまざまなハードルによって劇場に足を運ぶことができない人たちへ文化芸術に触れる機会を提供することも、劇場として求められる重要なことです。アウトリーチとは、文字通り〝外に出て届ける〟こと。県劇アウトリーチ事業は、市町村と共催し、小中学校や福祉施設などへ演奏家たちを派遣し、出前授業を実施するものです。ホールや体育館を使った鑑賞会ではなく、音楽室などの小さな空間で、生の演奏を間近で聴きながら、クラシック音楽の魅力を伝えることを大きな目的としています。この事業は、国の施策として全国の公共ホールが取り組んできたものでありますが、県劇では独自の施策として平成162004)年から実施しています。当初は首都圏から演奏家を招き、小中学校に派遣していましたが、現在では熊本で活躍する、もしくは熊本出身のアーティストを登録アーティストとして派遣しています。17年間の活動で、アウトリーチを実施した学校・施設は延べ322箇所、人数にして約3万人に達しています。今年度も10月から地域ごとの小中学校への派遣が予定されており、今後はその活動を広げていくことも視野に入れています。


(県劇アウトリーチ事業実績平成16年~令和元年)

音楽の魅力に、直接触れてもらいたい。演奏家の思いも届けるプログラム。

県劇が実施しているアウトリーチ事業の特徴は、授業の枠組のなかでなにを子どもたちに伝えたいのか、音をどう表現していくのか、専門家のアドバイスをもとに演奏家自身がプログラムを作成しているところにあります。演奏家の楽器や、得意分野などによって授業内容が変わっていくのが特徴です。例えば、楽器の音がどのように響くのか体感してもらったり、実際に子どもたちが楽器に触れ、音を出してみたり、作品の背景を音で感じてもらうなど、演奏家それぞれが工夫を凝らしたプログラムになっており、同じ演奏家でも毎年プログラムの内容がバージョンアップされていることもあります。じっと演奏を聴いているだけでなく、子どもたちの好奇心をくすぐるような演奏家の話しぶり、体を動かしたり、五感をフル活動する楽しい音楽体験を盛り込むことで、これまでに実施した事業のアンケート結果では、「授業が楽しかった」と答える子どもたちがほとんどでした。


(ピアノ:山本亜矢子)


(サクソフォン:山﨑明)


(児童アンケート:益城中央小学校令和2年2月17日実施分)

 

協力アーティストレポート

ヴァイオリニスト
広島交響楽団所属
緒方 愛子

子どもたちからのフィードバックが自分の演奏の幅を広げている

現在広島交響楽団に所属し、プロのヴァイオリニストとして活躍している緒方愛子さんは、平成262014)年から県劇アウトリーチ事業の登録アーティスト(現・協力アーティスト)として、小学校や中学校の出前授業、アクティビティに参加しています。熊本県出身の緒方さんは、登録当時は大学院生。「母が小学校の先生をしていて、その小学校にアウトリーチ事業でサックスのアンサンブル(カルテット・スピリタス)が授業をしたと聞きました。母はその授業内容にいたく感動したようで、授業の細かいところまで教えてくれ、私も参加したい、と思ったことがオーディションを受けるきっかけになりました」と、教えてくれました。2日間のオーディションを受け、採用後に3日間の研修が行われ、そこで自分がどんな曲を子どもたちに伝えていきたいのか、真剣に向き合う日々だったといいます。専門家といっしょにプログラムを組み立て、授業を実施し、子どもたちのダイレクトな反応をもとに、またプログラムを考える。登録から6年もの間、プロとなり、広島県へ移り住み、生活環境が変わるとともに、子どもたちへ伝えたいこと、伝えたい作品は変化していったといいます。「アウトリーチを通して、得るものは多いです。子どもたちにこれを伝えたい、と向き合えば、子どもたちからのフィードバックが返ってくる。それによって、自分の演奏にも良い影響があるような気がしています」とのこと。

この日のプログラムとして緒方さんが選んだのは、葉加瀬太郎の耳馴染みのあるものから、プロコフィエフの「ヴァイオリンソナタ第1番」など5曲。子どもたちは、普段の授業で触れられる機会が少ない難解な作品も集中して聴いていました。ヴァイオリンを構成する材料、木の話や、骸骨が踊っている様を表現する独特の奏法などの話になると、好奇心に満ちた子どもたちの表情が印象的でした。


左:古賀美千代(ピアニスト)右:緒方愛子(ヴァイオリニスト)
〈実施校〉 益城中央小学校 4年生
〈実施日〉 令和2217

 

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