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2020.03.20

特集「事業グループ座談会:ケンゲキのオシゴト~企画・制作編~」

県立劇場のオシゴトと聞いて、まず思い浮かぶのは「音楽や演劇の公演」だと思います。もちろん、それは大正解です。ただ、それだけでなく、劇場のオシゴトはとても幅広く、時には劇場から飛び出して駆け回っていることもあるのです。劇場のオシゴトは大きくわけて、施設を各団体に利用していただく「施設管理」と県立劇場が企画・制作を行う「自主事業」と2つあります。今回の特集では、意外と知られていない「自主事業」をテーマに、専門部門の事業グループの面々に語ってもらいました。

県劇の「自主事業」ってどんなことをしてるの?!

前川:私たち事業グループが取り組んでいる自主事業は、催物の企画や制作に関わるところです。平成24年に劇場法(※1)が施行され、それをもとに運営方針を決め、「公演」、「人材育成」、「普及啓発」の3種類の事業を実施しています。まずひとつ目の「公演」から紹介します。文字通り、オーケストラなどの音楽公演や、創作ステージの公演を行います。県劇には2つの専用ホールがあり、それぞれの特性に合わせた事業を企画しています。

佐藤:ここでホール自慢を!まずは音楽専用の「コンサートホール」ですが、クラシックの演奏で使われるホールで、理想的に音が響くように残響2秒に設定されています。とにかく生音が素晴らしいホールです。オーケストラのコンサートだったら県劇だよね、と認識されていると思います。

嶺:ホールそのものが楽器、という言い方しますよね。私は「演劇ホール」が好き。出演者が気持ち良く演じられる空間になっています。客席が近く、一人ひとりの方のお顔が見えるようなつくりで、オーケストラピットも配置できる。花道もつくれるし。県劇は、「道具幕」(背景描写された幕のこと)をたくさん持っているホールとして知られていて、奈落の底にしまってある。いずれはお披露目できたらいいなぁ、と。

中野:演劇ホールは、一昨年(H3028)に改修工事を行って舞台のバトン(※2)を全面電動に変えました。改修後は高さの記憶、スピードの変更、静音化が可能となり、使い勝手が広がったのでぜひ使ってほしいですね。

嶺:ほんとうに自慢のホールです。

前川:二つ目の事業の「人材育成」については、私たちのような実演芸術に関わる制作者の育成と、アーティストの育成があります。制作者の育成は2019年度に「舞台芸術制作セミナー」を実施。公演の準備や、制作者に必要なスキル、公演当日の動き方などを様々な専門家から学びました。専門学生や大学生など若い人たちが集まりました。

佐藤:余談ですが、事業グループスタッフの嶺さんと宮家さんはこの制作セミナーの出身者です。

嶺:私は1期生(平成13年)で、宮家さんは2期生(平成14年)。当時はクリエイティブコース、マネジメントコースの2種類あって、舞台公演を実施するまで10カ月間学びました。このセミナーの卒業生は、現在も県内外のホールで働いていますね。

宮家:私たちの頃は、劇場法ができる前だったので、地域創造ということに当てはめて人材育成が行われていました。県劇は先見の明があったんですよ。途中中断した時期もありましたが、劇場の人材育成は必要だと言われ続けています。

佐藤:今まで県劇が人材育成を行ってきて、実った果実がここに(笑)アートマネジメントの領域は芸術系の大学では学べますが、熊本ではなかなか機会がないので、劇場が行うことに意義があります。2020年度は、公共の施設にお勤めの方にターゲットを絞った講座が開かれます。

前川:アーティストの人材育成については、伝承芸能の育成があります。現在取り組んでいるのは、清和文楽。新しい演目を増やすために太鼓の先生などの指導者を派遣したり、淡路文楽の方を招いて人形芝居のブラッシュアップするなど行っています。

嶺:清和文楽は、農閑期に農家さんの娯楽として行われてきた人形芝居で、現在世代交代が行われているところ。そのお手伝いを劇場が続けていけるようにしたい。単発では終わらないよう、息の長い取り組みになります。

宮家 地域に残すべき伝承芸能を発掘して、残すために劇場としてどうしたらいいのか。その考えに則っているのが、県劇の人材育成の特徴ですね。

前川:三つ目の事業「普及活動」ですが、これは人材育成にもつながりますが、文化芸術を普及させることと、福祉や教育などの他分野の啓発に用いる活動を行っています。

嶺:地域や社会の課題を解決するために行っている事業ですね。音楽家を小学校に派遣して、生のクラシック音楽に触れる機会を設けるアウトリーチ事業は平成16年から取り組んでいます。また、演劇を学校のコミュニケーション教育に活用する取り組みも、ここ10年くらい継続して行っています。福祉分野での啓発活動は、演劇を用いた認知症声かけ訓練を子飼商店街の方たちとワークショップでは、認知症の方の気持ちになってみる、声かけの方法など、体感的に学べるプログラムをつくり、とても喜ばれました。2020年度はそれが根付いていくような仕掛けを考えています。

黒木:福祉の分野では、昨年の10月と11月の2回、知的・発達障がい児(者)に向けた劇場体験プログラム「劇場って楽しい!!」を開催しました。劇場での鑑賞をあきらめている方たちに向けて、文化芸術にふれ、感動し、共感できる場を提供するため、映画とコンサートの体験をしていただきました。この公演を企画しているは大阪の国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)で、県劇での公演ははじめてのこと。そのため障がいの特性や、サポートの方法など、職員が事前に学ぶために事前研修を行いました。

中野:まずは、受け入れる職員が知ることが大事だと、事前に研修を受けて思いました。今回研修には、県劇だけでなく県内各地のホールの方も参加され、それぞれの地域課題解決につながる意味あることと感じました。

黒木:実際公演を鑑賞された方から「たくさんのサポートがあって安心できた」という声が多数寄せられました。

県劇が果たすべきミッションは?!

佐藤:劇場は演劇や音楽の専門家や愛好家といった一部の人のためにあると思われることもありますが、県劇では環境や物理的な状況から足が遠のいている方々に向けた事業にも力を注いでいます。これは、年齢や障がいの有無、住んでいる地域等に関わらず、誰もが文化芸術に親しめる場であるべきだという社会包摂の考え方です。姜尚中館長が掲げる〝広場としての劇場〟の考え方にも通じますが、熊本地震以降の基本的な方針になっています。

嶺:地域に寄り添い、地域のために、という考えは県劇のベースにありますね。

佐藤:全国には演劇やオペラなどに特化したホールがありますが、県劇の場合は、素晴らしい2つの専用ホールを活用しながら、社会とつながり、地域課題に向きあうなど、使命が多いのが特徴。

宮家:熊本地震の後しばらくして衣食住が行き渡り、みんなが娯楽だとか、芸術を欲しがっていたタイミングで「劇場から出かけて行こう」と立ち上がったのが「アートキャラバンくまもと事業」です。演奏者や演者を連れて、音楽の素晴らしさ、体を動かす楽しさを届けてまわり、行く先々で涙を流す人たちがいて。そこから「今、何が大事か」と考えるようになり、進むベクトルがずれなくなりました。その時々で使命は変わるだろうし、取り組むべき課題は変わるかもしれませんが、そのベクトルをもとに事業を組み立てて行くだろうな、と。

注目してほしい2020年度の事業は?!

中野:2020年度は10月からホールの改修工事に入るので、前半にギュッとつまっています。コンサートホールの豊かな音響を楽しんでもらえるのが、4月の「サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団」と5月の「ベルリン・フィル八重奏団」。演劇ホールの照明や映像の新しい舞台演出を楽しんでもらえるのが、6月に開催の「鼓童×ロベール・ルパージュ〈NOVA〉」です。

前川:8月末には、熊本県芸術文化祭のオープニングステージがあり、今年のテーマは「バレエ」。舞台の出演者は、昨年12月に開催されたオーディションで選びました。もうすでにリハーサルがはじまっています。

佐藤:地元のバレエ教室の先生と協力して練習しています。出演者はオール熊本で、指導者はローザンヌ国際バレエコンクールに出るほどの一流の方たち。子どもたちにはとても良い機会だし、刺激になるんじゃないかな。

中野:2018年度から県劇と熊本市民会館が連携して事業を制作しています。マリンバの出田りあとギターの村治佳織のデュオコンサートは、人気・実力を兼ね備えた音楽家がはじめて組んで行うデュオコンサート。クラシック初心者にもおすすめです。

黒木:「劇場って楽しい!!」も、9月に開催予定です。この公演を担当してみて、障がいのあるなしに関わらず、みんなが一緒に楽しめるボーダレスな公演を今後考えていきたいなぁ、と思っています。

佐藤:まさに、劇場がめざすところ。さらに、国が定義する文化の範疇も広がり、食やアニメなども含まれるようになりました。音楽や演劇だけでなく、いろんな文化ひっくるめて楽しんでいただきたいですね。

宮家:異なるジャンルと連携していくことって、県劇が得意としている分野。たとえば、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団がロシアからやってきます。ロシア、といえば、ピロシキ、ボルシチ、ウォッカですよね。劇場にはレストランもあるので、食を連携させた企画ができないかと思っています。

前川:昨年はラグビーやハンドボールとコラボレートした公演もありました。

中野:一昨年の芸文祭のキービジュアルは、邦楽と人気コミックのコラボでした! 普段の公演チラシとは雰囲気が変わって、良かったですよね。

宮家:県劇の強みは、パートナーの多さ。コラボを提案すると前のめりで協力してくれるところが多くあります。劇場単体でできることは少なくても、協力してくれるパートナーがいればできることが広がる。強力なサポートがあってこその、県劇なんだと思います。

1 劇場法(劇場、音楽堂等の活性化に関する法律)平成246月施行:文化芸術振興基本法(現・文化芸術基本法)の基本理念に則り、劇場、音楽堂、文化会館、文化ホールなどの活性化を図り、実演芸術の振興によって活力ある地域社会の実現に寄与することを目的に施行。

2 バトン:演出上必要な幕や看板などの物を吊すための装置。

3(一財)地域創造:地域における文化・芸術活動を担う人材育成や、公立文化施設の活性化のための支援事業などを行う財団法人。


(事業グループ:自主事業の企画・制作から実施までを担当しています。)

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