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2026.10.20
【特集】第68回 熊本県芸術文化祭オープニングステージ マーラー交響曲第2番《復活》

2度の震災に見舞われた熊本に、《復活》が響き渡った
第68回 熊本県芸術文化祭オープニングステージ
『G. マーラー/交響曲第2番《復活》』
平成28年熊本地震から10年の節目に、マーラーの交響曲第2番《復活》を上演しよう―。第68回熊本県芸術文化祭オープニングステージは、そうした思いから準備が重ねられてきた公演でした。県内各地から約300名の有志が集い、指揮の高関健さんのもとで音を育ててきたこの試みは、令和8年熊本地震という新たな困難にも見舞われました。それでも舞台は、本番へ向かう歩みを止めませんでした。《復活》に込められた祈りと再生のイメージは、この日の熊本で、作品本来の意味を超えた重みを帯びて響き渡りました。
10年の節目に託された《復活》
今回の公演は、平成28年熊本地震から10年という時間の中で企画しました。死と再生、喪失と希望、静けさと高揚――マーラーの《復活》は、そうした相反する感情を抱え込みながら、大きな祈りへと向かっていく作品として知られています。だからこそ、この節目の年に熊本で取り上げる意味は小さくありませんでした。
県内から集まったオーケストラと合唱のメンバーは、それぞれの場所で音楽を続けてきた人たち。日頃は異なる団体や環境で活動する演奏者たちが、一つの作品、一つの舞台のために集う。そのこと自体が、この公演の大きな力になっていました。特別編成によるこの舞台には、単なる大作への挑戦にとどまらず、熊本で音楽をつないでいこうとする意志が重なっていました。
少しずつ、ひとつの響きへ
本番に向けた準備は、地道な積み重ねの連続でした。長大で複雑な作品だけに、リハーサル段階から、会場には独特の緊張感が漂っていました。高関さんは細部にまで耳を澄ませ、音の方向を丁寧に整えていきました。厳しさの中にもあたたかさを感じさせる導きのもとで、個々の音は少しずつひとつの響きへとまとまっていきました。その歩みの途上で、7月末には令和8年熊本地震が発生。それでも演奏者たちは諦めることなく、音楽を届けるための時間を重ねていきました。震災から10年の節目に《復活》を演奏しようとしていたこと、そしてその準備の最中に新たな地震に見舞われたこと。その二つの現実が重なったことで、この舞台はより切実な意味を帯びていきました。
熊本に鳴り響いた祈りと再生
そして迎えた9月27日の本番。総勢約300人のオーケストラと合唱が舞台に並び、高関さんのタクトのもと、《復活》は重厚かつしなやかに立ち上がりました。大編成ならではの厚みのある響きは、ときに深い祈りのように、ときに前へ進もうとする意志のように客席へと広がっていきました。静かな場面では緊張をはらんだ集中が会場を包み、終盤へ向かうにつれて、その響きは大きなうねりとなってホールを満たしました。
約1400人の観客が見守る中で鳴り響く《復活》は、単に名曲の感動を伝えるだけではありませんでした。2度の震災を経験した熊本でこの作品が演奏されること自体が、ひとつの強いメッセージになっていたように感じられました。音楽がすぐに何かを解決するわけではない。それでも、人が集まり、耳を澄まし、同じ時間を分かち合うことには、確かな意味がある。そのことを、この日の舞台は静かに示していました。

鳴り止まなかった拍手の中に
演奏終了後、客席から送られた拍手は、なかなか鳴り止みませんでした。それは舞台の充実に対する率直な賛辞であると同時に、2度の震災に見舞われた熊本で、それでも前を向こうとする演奏者たちへの共鳴でもあったのでしょう。また、観客自身の、地震を乗り越えようとする静かな意志もまた込められていたように思われました。《復活》という題名が、この日ほど切実に響いたことはなかったかもしれません。音楽は、熊本の中で今も生き、人と人の思いを結び直しながら、次の時間へとつながっていく。そんなことを深く感じさせるひとときでした。

指揮:高関 健 TAKASEKI, Ken
Profile/国内主要オーケストラで重職を歴任し、現在東京シティ・フィル常任指揮者、仙台フィル常任指揮者、富士山静岡交響楽団首席指揮者。サンクトペテルブルグ・フィル定期演奏会など海外への客演も多く、世界的ソリストや作曲家、特にマルタ・アルゲリッチからは3回の共演を通じて絶大な信頼を得る、緻密なスコア分析からスケールの大きな音楽を作りだす名匠。新国立劇場での團伊玖磨「夕鶴」、ストラヴィンスキー「夜鳴きうぐいす」、チャイコフスキー「イオランタ」、2019年にはウラジオストクとサンクトペテルブルグでも「夕鶴」を指揮するなど、オペラでも高評価を得る。1987年より2025年まで熊本ユースシンフォニーオーケストラの指導を続けた。 X(旧twitter) @KenTakaseki
【開催情報】
2026年9月27日(日) 熊本県立劇場 コンサートホール
出演/高関健(指揮)、安川みく(ソプラノ)、林美智子(メゾソプラノ)
芸文祭特別編成オーケストラ、芸文祭特別編成合唱団
曲目/マーラー:交響曲第2番《復活》
【オーケストラ参加者の声】

7月28日の地震のあとは、本番ができるのかという不安が大きかったです。でも、開催すると聞いて、みんなでもう一度気持ちを入れ直すことができました。「復活」という言葉の重みも、あらためて感じました。練習を重ねる中で団員同士の思いも強くなっていって、本番がいちばんいい演奏になったと思います。今は疲れたというより、すごく清々しい気持ちです。来てくださったお客さまに感謝していますし、音楽の力を少しでも感じてもらえていたらうれしいです。

今回限りの特別なオーケストラだったので、終わってしまって寂しい気持ちがあります。本番は緊張もありましたが、周りの皆さんに教えていただいたことを少しでも出そうと思って演奏しました。大きな編成のこの曲を最後までみんなで演奏しきれたことに、達成感があります。私にとって今回は、二十歳の記念であり、10年前の地震をきっかけに始めたオーケストラ活動の一つの集大成でもありました。この経験をこれからの演奏にも生かしていきたいです。



