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2024.12.20

特別対談 劇作家・演出家 劇団「扉座」主宰 横内謙介×熊本県立劇場館長 姜尚中

Special feature 特別対談
ローカルから、グローバルへ
アジアから発信する、
新たな文化芸術の挑戦

 

2022年11月、2日間にわたって開催した第64回熊本県芸術文化祭スペシャルステージ「ONE PIECE×人形浄瑠璃 清和文楽『超馴鹿船出冬桜(ちょっぱあふなでのふゆざくら)』」。この公演の脚本・演出を手がけた横内謙介氏は、スーパー歌舞伎での実績をもとに、人形浄瑠璃という難題に挑みました。見事2日間の公演を成功に導いた横内氏と県立劇場の姜尚中館長が当時を振り返りながら、ローカルからグローバルへ発信する文化芸術について語り合いました。

YOKOUCHI KENSUKE 劇作家・演出家 劇団「扉座」主宰 横内謙介
KANG SANG JUNG 熊本県立劇場館長 姜尚中


伝統芸能で表現するONE PIECEは、

見たことのない景色

姜 ONE PIECEの清和文楽公演は、人形浄瑠璃と人の身体劇とが融合している様が壮観で、感動しました。
横内 お話をいただいた時に人形浄瑠璃を勉強できるいい機会だなと思って。県劇の演劇ホールではじまって、その後は清和文楽館で定期公演することが決まっていたので、県劇での公演をまずは成功させないと、という気持ちでお祭りにすることを考えました。
 だから熊本県内の子どもたちを含めて出演者が200人規模の舞台となった。内側から出てくるエネルギーを引き出して、舞台を盛り上げるという。
横内 清和文楽館の人たちは、自分たちの持っている宝物を人に広めていくことに慣れていないし、表現者としての至高体験をこの舞台で得てもらいたいなと。強引に富士山の頂きに連れて行くようなもので、もう詐欺師です(笑)清和の人たちも不安でしょうがなかったと思うんですよ。いろんなプロが集まる舞台で、彼らのパワーアップを図ろうっていう試みだったのですが、農業などやりながら活動している一座がよく頑張り、幕が下りた時に泣き崩れていました。
 横内さんは、歌舞伎で貴重な体験をされていますが、様式美を守る伝統芸能と、現代演劇との接点というのはどうつくられているのですか。
横内 伝統芸能の様式美のエッセンスは、現代にもすごく使えるものがあります。歌舞伎の時は、三代目猿之助さんから日本的な間などをいろいろ学ばせてもらいました。本来は、盗んだり叩き込まれないとわからない歌舞伎文法を、論理的に説明してもらった。例えば、歌舞伎では決闘を目の前にしている後ろの侍は微動だにしない。それは、決闘している2人を際立たせるため。現代演劇ではそれはないが、歌舞伎の持つ表現なんです。それで最後に得られるものは、究極の美だという。その演出は、県劇での公演でも小さい人形に光を当てるために随分使っています。伝統芸能に触れていたからこそわかっていました。

型にはまった中から
自由奔放な
オリジナルが生まれる

横内 古典芸能は、最初に師匠のマネをしろと叩き込まれる。型にはめる。オリジナリティは要らないわけですよ。ただ、元は師匠のマネなのに、歌舞伎俳優というのは同じ演目をやっても、みんな違うわけです。逆に個性が際立ってくる。その個性を際立たせる土台が型によってしっかりしてるから、圧倒的な説得力があるのです。
 横内さんが歌舞伎で学んだことが、人形浄瑠璃の公演でも活かされるわけですね。
横内 人形には表情がないけれど、人形浄瑠璃の指導をした淡路人形座の人たちが操れば人形に表情が出てくる。ONE PIECEのチョッパーは、ぬいぐるみなんだけど、その顔が曇って見えたり、悲しげな背中が見えたりするわけ。型が徹底的に入っている人が操れば、オリジナルの表現も生きるんだってこと。伝統とか、自分たちが守ってきたものの可能性について、清和の人たちも気づいてくれたんじゃないかなと思います。
 型にはまった中から自由奔放なものが出てくるのですね。
横内 アジアの話になりますが、「踊るアジア」という舞台に以前取り組みました。日本、韓国、タイ、バリの舞踊家が8人集まってつくる舞台を一度トライアルでやったのです。各国全部の稽古場を見学しましたが、伝統芸能は共通していましたね。師匠がいて、この型を覚えなさいと。
 美術も音楽も、学校ではもはや教育になってしまっている。マスターがいて、その雰囲気とかいろんなものを学んでいくっていうのは、今はもう教育現場ではなくなっていますね。

音楽や演劇や芸術は
薫陶を通じて
伝わっていく

横内 三木のり平さんて役者がいたじゃないですか。結構可愛がってもらったんですよ。芝居のつくり方とか、演出の仕方とかいろいろ教えてもらった。のり平さんがフリースタイルも良いが、客席に届ける技を学べと言った。笑わせるのも名人ですけど、あんなに芝居の技を持っている人はいなかった。
 のり平さんは、大好きな俳優さんです。
横内 芝居って教科書にできないことが多すぎます。マニュアルの中にメンターはいないですよね。メンターとの出会いが、特に僕らの職業にとっては絶対不可欠だと思うんで。
 大学にもメンターになる人がいたんで、薫陶を受けたっていうか。音楽や演劇や芸術は、薫陶を通じて伝わっていく。それが観客にも伝わる。横内さんのような人が、歌舞伎、人形浄瑠璃と伝統芸能を取り入れ、画期的なことが生まれた。僕は価値が生まれるのは異種混交でないとダメだと思うんですよ。同質性の中にまどろんでいる限りは新しい価値は出てこない。
横内 以前館長がおっしゃった「ローカルからグローバルへ」という言葉、あの後いろんなところで使わせていただいてて。今清和文楽館で行われているONE PIECEの定期公演で、毎回駐車場に入りきれないぐらい車を並べてみたいですね。あそこに行って楽しむ人たちを、どれだけ惹き付ける仕掛けができるかですね。

演劇や芸術がないと
社会的な酸欠状態に
なってしまう

 コロナ禍、劇場ができることをいろいろ考えました。劇団のような組織を抱えている人にとっては、その存続ですよね。
横内 日本で「エンターテインメントは不要不急のことで我慢してください」と言っていた一方で、ドイツの政府は「生命維持装置として真っ先に文化芸能を守る」と発表した。現場で培われた技術というのは、長くそこにいないと分からないことが多々ある。それが、このコロナ禍でずいぶん廃業した。彼らが持っていたノウハウは再度つくりあげるのに、ものすごい時間がかかる。
 僕もドイツの文化相のその言葉を引用したことがあります。演劇や芸術がないと、社会的な酸欠状態になって、息すらできない。社会が崩壊はしないにしても、大変なことだと。
横内 国際政治学をご専門にされていた先生が、なぜ県立劇場の館長を引き受けられたのか聞きたかったんですよ。僕にとって大きな希望なので。
 ひとつは、文化芸術でアジアの交流を深めるシアターアジアに取り組みたい。日本が低迷してる理由は、文化産業とか、文化国家とか、こういうところに目が向いていないからです。高付加価値化を実現できるのは文化芸術、アートしかない。日本の伝統芸能の中にそういう側面があればスポットライトを当てて、高付加価値をつくれるようにしたい。僕はこの県立劇場を預かって、アジアとの交流で文化振興していきたいのです。彼らとケミストリーを起こしていけば、まだまだアジアの可能性はあるんだ、と。

対談のフルバージョンはこちら
【フルVer】特別対談 劇作家・演出家 劇団「扉座」主宰 横内謙介×熊本県立劇場館長 姜尚中 – ほわいえ

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