contact

MENU

2022.12.15

特集「県立劇場開館40周年記念事業『動く劇場~5 Stories~』」

いつでも、どこへでも。
誰かの日常に、劇場を届けたい。

阿蘇大観峰での撮影は、撮影場所として選んだスポットに行くまで、楽器を大事に抱えて歩く演奏者の姿が印象的

うっすらと広がる朝靄の中に、響き渡る弦楽四重奏のしらべ。そのステージとなっているのは、阿蘇五岳を望む収穫を終えた田んぼのまんなか。いつもの、なにげない阿蘇の日常の中で突然開かれた演奏会は、この場所にとっては非日常のものかもしれません。ただ、空気の震えとともに、風にのって運ばれる音色に呼応するように、遠くでモォと啼いている牛や、時折靄を吹き消す風の音が重なって、非日常の光景が、日常のものに馴染んでいく、不思議な世界ができあがっていく瞬間がありました。県立劇場開館40周年を記念して制作が進んでいる「動く劇場~5Stories~」の阿蘇編は、そんな風景から幕を開けました。

世界に誇れる熊本を舞台に、熊本のアートシーンを世界中へ

劇場というのは、ホールの重い扉の中の、ある意味閉ざされた空間で、そこで起きることや、心動く瞬間をホール内の人たちと共有する特別な場所です。2022年、開館40周年を迎えた県立劇場が掲げたのは、「日常に、劇場を。」というテーマ。食べて、寝て、笑って、泣いて、学んで、語り合ってすごしている、ふだんの暮らしの中で、もっとも日常から離れているような劇場にふれて、感じ取ってほしい。長い歴史を重ねてきたからこそたどり着いた、劇場からのメッセージを込めたテーマでもあります。
40周年の記念事業のひとつとして、「動く劇場~5 Stories~」と題した動画プロジェクトがはじまっています。このプロジェクトは、世界遺産などに登録されている、熊本が世界に誇る地域で、熊本出身、熊本にゆかりの深いアーティストがパフォーマンスを行い、熊本を拠点に活動するクリエイティブチームが動画作品を仕上げるというもの。「日常に、劇場を。」を共通のテーマとし、阿蘇、﨑津集落、三角西港、万田坑、八代妙見祭の5つの舞台で、5つのチームが、それぞれに抱く熊本への思いをのせたパフォーマンスを行い、ストーリーのある映像作品を制作中です。このプロジェクトの大きな特徴は、自分の色を大事にしているアーティストやクリエイターを、それぞれの地域ごとに組み合わせることで、そこから何が生まれるのか予測不可能な化学反応にあります。その地域のことを思う心、観る目線、感じる音が渾然一体となり、どんな作品に仕上がっていくのか、期待は高まるばかりです。

阿蘇のカルデラが動く劇場の舞台
自然の風景、音、人々の営みとのコラボレーション

演奏者をさまざまな角度から切り取っていく撮影スタッフたち

「動く劇場~5Stories~」プロジェクトで制作中の5つのチームから、今回は阿蘇で行われた撮影に同行しました。世界有数のカルデラを誇る阿蘇を舞台に、動く劇場プロジェクトの演奏を担当するアーティストは、このプロジェクト限定で結成された弦楽四重奏団です。アウトリーチの協力アーティストであるヴァイオリニストの緒方愛子さんの呼びかけで集まったアーティストは、ヴァイオリンの黒葛原康子さん、ヴィオラの早田類さん、チェロの渡邉弾楽さん。そして、その演奏を動画作品としてつくりあげるのは、阿蘇を拠点に活動している映像クリエイター中島昌彦さんです。撮影初日の最初のカットは、前述した阿蘇の日常そのものといえる田んぼの中。火山信仰のある阿蘇には、山の神様が人々が暮らす里に下り、田んぼの生育を見て回る「御田祭(おんだまつり)」というお祭りがあります。この火山信仰をベースに、カルテットを4基の神輿に見立て、山にいる神様が里に下り、そして山に帰っていく一連の流れをストーリーの核としているといいます。そのストーリーを際立たせているのは、作曲家の寺嶋民哉さんの手による阿蘇のための楽曲。撮影1週間前に届いたというそのスコアは、まるで阿蘇の風景が浮かびあがってくるようなものでした。映画音楽を数多く手がける寺嶋さんから受け取った楽曲と、それぞれの熊本への思いをのせたカルテットの演奏、そして活火山と共存する阿蘇の歴史と日常を紐解いたストーリーが、どのような化学反応を起こすのか。阿蘇と弦楽四重奏の動画の公開は、2022年の末から2023年の年明けあたりになる予定です。

 

 

 

弦楽四重奏:
ヴァイオリン/緒方愛子、黒葛原康子
ヴィオラ/早田類、チェロ/渡邉弾楽
いただいたスコアを見て、まず冒頭部分から阿蘇神社の風景が浮かび上がってきました。ふだんは楽器のメンテナンス上、屋外で演奏することはありませんが、朝一番で田んぼの中で演奏した時は、自然と一体となる不思議な感覚がありました。音色の引き出しがひとつ増えたような気持ちになりました。牛の啼く声や、風の音、スケールの大きい自然からエネルギーをもらいました。音楽をやってきて良かった、と心から思えたひとときでした。

撮影監督:中島昌彦
阿蘇の日常をクラシックの演奏で表現することで、日常というものが少し違った見え方になるのでは、という仮説を立てて企画しました。阿蘇を造ったとされる神様が祀られている阿蘇神社にヒアリングを行い、阿蘇の草原を研究している大学教授から学びを得ながら、阿蘇という地域と向き合い、音楽と映像の企画を組み立てました。当初は既存の曲から選定を予定していましたが、別プロジェクトで縁のあった寺嶋さんに相談したところ、オリジナル楽曲の編曲を快諾していただきました。阿蘇そのものを県立劇場の舞台に見立てて、ロケーションを選定しています。音楽や芸術が、日常を明るく照らす光として助けになることを切に願っています。

「動く劇場~5Stories~」プロジェクトは、熊本県立劇場の公式YouTube「ケンゲキアートチャンネル」で公開中

三角西港で行われたマーチングの撮影模様

「動く劇場~5Stories~」プロジェクトの作品は、県立劇場の公式YouTubeチャンネル「ケンゲキアートチャンネル」で、完成した作品から順次公開されます。12月中にはプロジェクト第一弾となる「三角西港×マーチング」の動画が公開され、その後に第二弾、三弾と公開が控えています。熊本に関わりのある人たちが、熊本の各地域で、いろんな地域の人を巻き込みながら、プロジェクトは進んでいます。

◆アーティスト・クリエイター紹介
[三角西港](宇城市)
Ventures 専修大学玉名高等学校吹奏楽部(マーチング)
映像制作/Hub.craft inc.

[阿蘇](阿蘇市)
緒方愛子、黒葛原康子、早田類、渡邉弾楽(弦楽四重奏)
映像制作/中島昌彦

[八代妙見祭](八代市)
本田浩平(津軽三味線)、髙田大介(太鼓)
映像制作/株式会社AREA

[﨑津集落](天草市)
亀子政孝(コントラバス)
映像ディレクション/佐藤かつあき

[万田坑](荒尾市)
葉山悠介、小山咲、鹿間れいあ(コンテンポラリーダンス)
音楽・ディレクション/吉田敬

SHARE

contact