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2021.06.18

寄稿「伝統芸能には夢がある~肥後アマビエ戀歌異聞の野望~」

熊本県立劇場プロデュース「肥後アマビエ戀歌異聞」
2021年3月20日 熊本県立劇場 大会議室

2 0 2 0年コロナ禍の中、SNSを通じて一躍有名になった妖怪「アマビエ」。江戸時代の妖怪がTwitterというツールで蘇ったのがなんとも今風だ。そのアマビエを題材に清和文楽の新作台本を書かないかと熊本県立劇場から誘われたのは凡そ一年前。文楽とは所縁のない私に話が回ってきたのには、文楽を知らない人にも分かり易い短編をという狙いがあったからだ。に、してもだ。文楽など一度観た事があるだろうか?程度の門外漢にそんな大事な台本を託してよいのか?最初はアイデアの提供ができればくらいの心づもりだったが、台本は私が通常書いているスタイルでよい事、あとは淡路人形座が浄瑠璃に書き換えて下さる事を聞き、それならと軽い気持ちで台本を引き受けてしまった。ところが、私が書いた十五分の短編は、人形浄瑠璃では一時間の超大作になるという。なんという大きな誤算!そこからは「人形浄瑠璃的手法と現代演劇的手法」の演算の繰り返し。私が舞台の構想を伝え、それを人形振付の吉田史興氏が伝統の型に変換、清和文楽人形芝居保存会が演じる。それはまるで浄瑠璃人形のように三位一体の作業。呼吸を合わせてゆっくりと決して駆け足では出来ない作業だった。

一方、熊本県立劇場は物語を進行する浄瑠璃の太夫のように、多くの関係者を巻き込み、公演・舞台の制作を進め、そこに三味線のように熊本デザイン専門学校の衣装が色を添え、人形達をビジュアルから「アマビエ」仕様に変えていく。


(3月20日本番の様子。衣装は熊本デザイン専門学校の学生の手によるもの)

村の神事や娯楽として根付き、伝承という形で継承してきた清和文楽人形芝居保存会の中では、アマビエの作られ方はとてもシステマティックで型破りだったかもしれない。そして、出来上がった本作は「人形浄瑠璃の手法をとった新しい演劇」(by吉田氏)であり、「小劇場的人形浄瑠璃」(by松本)。まさしく令和の清和文楽だった。

暗い話題の続く中、少しでも明るい話題をと雪女をアマビエに変化してみたという清和文楽のユーモラスなSNS発信から端を発した新作「アマビエ」。現代と伝統の融合はこの時から約束されたものだった。

そしてお披露目公演を終えた今、もしこれが清和文楽のニュースタンダードとして伝承されていったらと想像してみよう…… 。伝統芸能には時空を超える夢がある。

 

松本 眞奈美[まつもと まなみ]
劇団「市民舞台」
「肥後アマビエ戀歌異聞」脚本

 

 

 

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