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2026.06.20
【特集】けんげきキッズプログラム 九響 0歳からのオーケストラ

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九響 0歳からのオーケストラ
はじめて出会う、オーケストラのひびき
4月26日、雨に濡れた新緑に包まれた熊本県立劇場に、たくさんの親子連れが足を運んでいました。ベビーカーを押すパパやママ、少しおめかしをした子どもたち。その表情はみなにこやかで、あいにくの空模様のなかにも、これから始まる楽しい時間への期待が感じられました。0歳から入場できるこの公演は、生まれたばかりの赤ちゃんも、よちよち歩きの子どもも、家族そろって「ほんもの」の音楽にふれられる場として企画されたものです。

開演前、演劇ホールのホワイエにはやわらかな音楽が流れていました。コントラバス、弦楽器四重奏、オーボエによるウェルカムコンサートです。楽団員が子どもたちに楽器を紹介しながら音を届けると、その場の空気が少しずつほぐれていきました。

熊本県立劇場と、九州唯一のプロの交響楽団である九州交響楽団は、昨年2月に包括連携協定を締結し、子ども向け公演を共同で継続実施しています。この公演でも、「静かに聴く」「未就学児は入場不可」といった従来のクラシック公演のイメージから一歩踏み出し、出入り自由、乳児OK、おむつ替え・授乳スペースの設置など、家族が安心して過ごせる環境が整えられていました。場内だけでなくロビーも含めて、劇場全体がひとつの体験の場としてひらかれていたことが印象に残りました。

地階席・1階席を中心に、チケットは早い段階で完売。公演への関心の高さがうかがえます。今回は会場を演劇ホールに移し、舞台の自由度を生かした新たな試みも加わりました。それが、ステージ前に設けられた桟敷席です。目の前に広がるオーケストラを間近に感じられる特別な空間で、子どもたちは寝転んだり体を動かしたりしながら、思い思いのかたちで音楽と出会っていました。九州交響楽団の広報担当者は、「オーケストラの幅広い音や迫力ある演奏に初めてふれたとき、子どもたちの反応はとても素直なんです。会場全体が幸せな空間になりますし、楽団員もお子さん向けの公演では特に張り切るんですよ」と話していました。

選曲もまた、この公演の魅力のひとつです。子ども向けだからと親しみやすい曲ばかりに寄せるのではなく、質の高い名曲を軸に構成したプログラムは、子どもだけでなく大人にとっても「本物」を味わえる内容になっていました。

指揮を務めた喜古恵理香さんは、開演にあたって「泣いてもOK、騒いでもOK、踊ってもOK、寝てもOKですよ」と客席に呼びかけました。「お子さんと一緒に、お父さんお母さんも楽しんでください」という言葉に、会場全体がやさしく包まれていくようでした。喜古さんはオーケストラの紹介に加えて、それぞれの楽器についても分かりやすく伝え、初めてオーケストラに出会う子どもたちを、音楽の世界へと自然と導いていきました。

なかでも会場が大きく沸いたのは、「アンパンマンマーチ」です。子どもたちはよく知っている旋律に声を上げ、歌い、体を揺らしながら音楽に応えていました。その姿は、音楽を「正しく聴く」のではなく、全身で受け取っているようでした。保護者たちの表情も印象的でした。「小さな子どもが泣き叫ぶと退出しなければならないことが多いけれど、このコンサートは0歳からOKとあって来ました」「おむつ替えや授乳コーナーがあるのは本当に助かりました」「子どもが思いのほか静かに見ていてくれて、大人も楽しめました」――そんな声からは、この公演が親子双方にとって大切な時間になっていたことが伝わってきます。前方の桟敷席で聴いていたお父さんの「目の前でオーケストラが見られて迫力がありました。また機会があればぜひ来たいと思います」という言葉も印象に残りました。

子どもたちにとっては、さまざまな楽器や音色との出会いが、感性をひらく最初の入口になるのかもしれません。そして保護者にとっても、子どもと一緒に気兼ねなく劇場へ足を運び、同じ音を共有できる時間は、かけがえのないものです。約1時間の公演は、驚くほどあっという間に過ぎていきました。にぎやかさも、泣き声も、笑い声も、すべてを受けとめながら、オーケストラの響きを家族へと手渡していく――。「九響 0歳からのオーケストラ」は、劇場がもっと身近な場所になれることを、あらためて感じさせてくれる公演でした。
【開催情報】
2026年4月26日(日) 熊本県立劇場 演劇ホール
【プログラム】
ドヴォルザーク/スラヴ舞曲 第1集 第1番
アンダーソン/プリンク・プランク・プルンク
エルガー/エニグマ変奏曲より「ニムロッド」
三木たかし/アンパンマンマーチ
久石譲/『魔女の宅急便』より「仕事はじめ」
ラフマニノフ/ヴォカリーズ
ヴェルディ/歌劇『ナブッコ』序曲
ヨハン・シュトラウス1世/ラデツキー行進曲(アンコール)
photo: Kakimoto Nozomi (柿元写真事務所)



