2024.12.20
特集 熊本県芸術文化祭オープニングステージ『ひこばえ』
Special feature 熊本県芸術文化祭オープニングステージ
県内の太鼓奏者と鼓童が示した新たな可能性
「芸術を高め、文化を広め、次世代へつなぐ」をコンセプトに、熊本県の芸術文化祭の開幕を華々しく告げる「熊本県芸術文化祭オープニングステージ」。例年、国内外で活躍するアーティストをゲストに、県民参加の舞台を創作しています。
66回目の今回は、国重要有形民俗文化財の宇土雨乞い大太鼓に焦点を当てた「和太鼓」がテーマです。県出身で太鼓芸能集団「鼓童」メンバーの前田順康さんを演出に迎え、2年間かけクリエイションしました。
オーディションで選ばれた中学生から40代の熊本県内の太鼓奏者たちと宇土雨乞い大太鼓保存会メンバー、そして鼓童メンバーが出会い、クリエイションに取り組んだこの舞台。歴史と伝統の中にある太鼓に新たな可能性を示す作品となりました。
舞台は2部構成。第1部は宇土雨乞い大太鼓フィーチャーステージ、第2部はこの舞台のための委嘱作品の世界初演です。
第1部では、宇土雨乞い大太鼓保存会選抜メンバーが鼓童のメンバーとともに、宇土で継承されてきた太鼓を交えて複数の曲を奏でていきます。太鼓が担ぎ上げられ、舞台の下手から上手にゆっくりと移動すると、一気に時代をさかのぼり、まるで雨乞いの場に立ち会っているかのように客席は演奏に引き込まれていきます。
第2部では、作曲家・藤倉大さんによる「Pulsing~パーカッショングループのための」を初演。演奏者は団扇太鼓を叩きながら客席から現れます。こういったアイデアは、作曲者の藤倉さんと前田さんがオンラインで話し合いながら生まれたものだそう。藤倉さんはこういった創造性を「鼓童らしい」と評します。楽曲は依頼した演奏時間より多めに音符が書かれ、どんな楽器で弾くか、どの部分を省略して演奏するか自由にしてよいとされています。今までにない太鼓の楽曲が県劇の舞台で誕生しました。
続いて演奏された「ひこばえ」は前田さんの作品。こちらも世界初演です。「熊本」と聞いてそれぞれが思い起こす風景をコラージュし、「実際には存在しないけれど、確実に自分たちの頭の中にある熊本の姿」を音にしようと、創作が進められたそう。前田さんを中心に対象に配置される演奏者たち。力強さもありながら、太鼓が持つ従来のイメージを覆すようなやさしさを感じる楽曲でした。
前田さんは今回演出を務めた自身のことを「学級委員長のようなもの」と言います。「鼓童が何か教えるとか提案するのではなく、みんなで考えたいと思っていました」。今後は舞台「ひこばえ」が独立して、鼓童の手をどんどん離れていくことが狙いだと前田さんは話します。「このパッケージでそのまま再演するのではなく、1曲をピックアップして演奏したり、今回のために書き下ろした作品を新たなメンバーで演奏したり、コミュニケーションのきっかけになっていくことが願いです」。
本公演のタイトルにもなった「ひこばえ」とは、切り株や木の根元から新たに生えてくる若い芽のこと。太鼓という大きな歴史の中で今回の参加者たちが新たな芽となり、今後の太鼓文化を牽引していきます。
第66回
熊本県芸術文化祭オープニングステージ「ひこばえ」
2024年9月8日(日)14時開演 演劇ホール
第1部:宇土雨乞い大太鼓フィーチャーステージ
『呼~大太鼓~鼓行~こだま~モノクローム~大太鼓~木星』
第2部:熊本県芸術文化祭オープニングステージ委嘱作品(初演)
藤倉大『Plusing~パーカッショングループのための』
前田順康(太鼓芸能集団 鼓童)『ひこばえ』
出演/太鼓芸能集団 鼓童〈特別ゲスト〉
オーディションで選抜した県内の太鼓奏者
宇土雨乞い大太鼓保存会選抜メンバー
参加者の声
ネイビン・ニコラス・アカミネさん
こうやって熊本県内の太鼓奏者が集まり、鼓童のみなさんと一緒に舞台に立てて幸せです。Plusingは特徴のある曲なので、どんな感じになるのかなと思っていましたが、うまくいかなかったところもうまくいったところもありました。まだまだ成長できる部分がいっぱいあるので、この経験を生かして成長したいです。これまでの稽古があって、でも決して今日の公演が終わったから「ひこばえ」が終わるのではなく、これからも続いていく感じがいいなと思っています。
坂井碧仁さん
今回オーディションを受けた理由は、鼓童のみなさんと演奏したいという理由でした。見事合格して、いろんなチームの方とも一緒に交流して、同じ作品を作り上げて、ミスもなくしっかり演奏できなたと思います。楽しく演奏できました。僕は自分の所属している「和楽器集団昂」で副キャプテンをしています。今回は「昂」から3人が参加しました。3人しか経験していないことを後輩に伝えて演奏に活かしてもらえたらと、自分も活かしていけたらと思っています。