2020.12.20
特集「劇場のお仕事:舞台技術~期待値の100%以上を提供すること~」
技術スタッフの役割は安全と感動の両立。
開演を知らせるブザーが鳴る、そして照明が暗くなり、幕が上がる。ステージ上に灯されるスポットライト、ホール内に響き渡る音。この舞台上のすべての演出に携わっているのが、舞台技術スタッフです。今回の特集では、熊本県立劇場の舞台技術のお仕事についてご紹介します。
県劇のような公共ホールの舞台技術には、大きくふたつの役割があります。ひとつ目は、安全管理。これは、主催者が安全にホールを利用できるようにするための後方支援です。全国ツアーのライブ・演劇や、海外からのオーケストラなどの公演には、主催者側が専属の技術スタッフを連れてくるケースがほとんど。その技術スタッフによる演出がスムーズに、効果的に行われるよう、県劇の舞台技術スタッフは後方で安全管理を徹底して行います。主催者から求められるものを100%とすれば、それを最低ラインとして、さらにその上の提案をするために、やりとりを密にして要望をくみ取っていきます。2016年の熊本地震後は、有事の場合の対応についても詳細に打ち合わせを行っており、今年からは新型コロナウイルス対策としての劇場運営が加わっています。
ふたつ目の仕事は、舞台技術の提供です。県劇のホールを利用される団体へ、照明や音響や映像など、劇場のスタッフが技術を提供します。主催者に対し、催物の内容をヒアリングしながら具体的にどのような舞台演出を行うのか、時には見せ方や演出の方法などをアドバイスします。県劇のホール利用に慣れている団体もあれば、初めて利用される方も。また、舞台のジャンルによっても対応は変わってきます。場合によっては主催者側で舞台監督を立てることもあり、劇場のスタッフの関わり方はケースバイケースで実にさまざまです。
表には出ないけれど舞台上に生きている技術。
舞台では、見ている風景が一変する場面転換や、音と光のシンクロした演出、出演者の息づかいまでも、鑑賞の感動につながります。その演出に大きく関わっているのが、舞台技術スタッフです。決して表には出ない存在ですが、その舞台上にあるすべてのことに関わっています。舞台技術スタッフの主な業務は、舞台機構の操作や、舞台監督の指示を裏方スタッフに伝える「舞台機構」、ホール内の音楽、音の環境を総合的にデザインする「音響」、そして光によって舞台を演出する「照明」と、大きく3つあります。舞台機構は、進行に関わる業務を担当し、演台や平台、吊り物、プロジェクターなど必要な備品を準備します。主催者との公演内容の打ち合わせを中心となって行い、その内容を集約して「音響」や「照明」のスタッフに連絡調整します。公演当日は、舞台の安全管理を行うとともに、舞台袖で進行を見守り、吊り物の上げ下げ、床機構の上げ下げなどの操作を行います。
音響は、観客が体感する音楽環境、舞台上の音に関わることすべてを総合的にデザインします。効果音を出すタイミングや、その音量など、舞台上の重要な演出にも関わることがあります。バンド演奏やミュージカルなど、マイクを数多く使用する演目の場合は、全体のバランスをとりながら、マイク1本1本の細かな調整まで行います。そして照明は、舞台上の必要な部分に光を当て、明るさや色、点滅などの効果を複雑に組み合わせて舞台上の演出をします。公演ジャンルによって照明に求められる内容は変わり、舞台演出の中心的な役割を担うこともあります。
現在県劇のコンサートホール、演劇ホールの両ホールは、音響と舞台床機構の改修工事に入っています。令和3年3月には改修工事が終了する予定で、その際には最新の音響システムが導入されます。舞台技術には、正解というものがなく、その時、その一瞬の感動を生み出すために、試行錯誤が繰り返されています。また、時代によっても、ジャンルによっても、その演出のトレンドは変化しています。ただ時代にも、ジャンルにも左右されない共通する目標はひとつ、公演を見ているお客さんが喜んでくれる舞台を創り出すこと。その一点を見つめながら、舞台技術スタッフは舞台袖で、舞台の後方で、働いています。