2024.03.20
令和5年度改修工事報告
時代を超えて愛される建築は、
時代とともに変化していく
熊本県立劇場は、2023年11月13日から2024年3月15日までの4カ月の間、改修工事のために施設利用を停止していました。今回の工事は、中長期計画における中規模の改修にあたり、今後は2015年に策定した保全計画書をもとに熊本県、県立劇場、そして設計を担当する前川建築事務所の3者の協議によってメンテナンスを実行していく予定です。保全計画では、3年に一度細かな改修が予定されており、建物が持つ独特の空間性を重視しながら、ずっと愛されていく建築として継承していく方針です。
熊本県立劇場は、モダニズム建築の旗手として戦後の日本建築界を牽引してきた建築士、前川國男氏の最晩年作の建物として知られています。コンサートホール、演劇ホールと、ふたつの性格の異なる専用ホールを有し、西側の道路から東側にある駐車場をつなぐモールと呼ばれる空間がこのふたつのホールを音響的に分離し、空間的にゆとりのある設計となっています。長期にわたる適切な維持保全が評価され、2020年には、公益社団法人ロングライフビル推進協会のBELCA賞を受賞しました。
「変わらないね」との言葉が、
なによりの褒め言葉
熊本県の方針によって、県立劇場は10年、20年単位での大規模な改修を行うのではなく、3年に一度の部分改修を計画に基づいて行っています。設計を担当する前川建築設計事務所の担当設計士、江川徹さんにとって、この保全計画は「管理者と細かなやりとりができ、お困りごとにも対応できるので、ずっと面倒を見ることができる良い関係性をつくることができる」というメリットがあるといいます。熊本県、管理者である県立劇場、設計士との3者でディスカッションを重ねていくことで、改修に向けて関係性を築くことができ、なにが最適解なのかを一丸となって追及することができるわけです。「利用される方たちに愛され、ずっと誇りに思ってもらえる建築を残していくお手伝いができれば、と常に考えています」という江川さんの言葉どおり、これまで受け継いできた県立劇場の建物が醸し出す“空間性”はそのままに、利便性や時代に合った改修を行っています。文化財のように建築当時のままの状態で保存していくのではなく、利用する人の、管理する人の身になった利便性を追求し、時代に合わせた機能を向上させることが改修工事の大きな目的でもあります。今回の改修工事では、照明のLED化が多く施されていますが、建物の空間性を損なわないよう、LEDにフィルターをかけるなど細やかな工夫がされています。江川さんにとって「あんまり変わっていないね」という言葉をもらうことこそが、設計士冥利につきるといいます。
令和5年度改修のポイント
今回の改修は、設備類の更新をメインに行いました。正面玄関の照明を整備し、以前は暗いと感じられていた外廻りが、ほんのりと明るく雰囲気が良くなっています。
●コンサートホール舞台機構(迫り)更新と舞台床研磨
●演劇ホール舞台照明更新
●ホール内の空調騒音の解消
●ピアノ庫や楽屋・控室前通路の個別空調増設
●空調自動制御システムの更新
●屋外汚水、雨水排水設備の更新
●非常用発電機の更新(屋外移設)
●蓄電池設備の更新
●音楽・演劇リハーサル室、和室の照明のLED化
●館内時計設備の更新
●電力(高圧)引込開閉器の更新
●大会議室の音響・照明設備の更新
●特殊照明設備のLED化
●外灯照明のLED化