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2023.12.20

特集 伝承芸能トークセッション「劇場×清和文楽×神楽」フルバージョン

2023.10.31(火)10:0011:30

場所:熊本県立劇場 光庭・館長室

参加者:
清和文楽 (一財)清和文楽の里協会
渡辺奈津子
岡本翔
中江岩戸神楽 中江岩戸神楽保存会
後藤大樹(ひろき)
後藤詩乃(しの)
熊本県立劇場館長
姜尚中

伝承芸能がそれぞれの地域で受け継がれてきた背景には、風土、農作物、仕事、コミュニティ、生活様式など、その土地で営まれてきた暮らしがあります。地域コミュニティのあり方、生活様式が変化している現代において、伝承芸能は、守る、保存する文脈で語られることが多いですが、熊本県立劇場では、世代を超え、地域社会のコミュニティの形成に大きな役割を果たしてきた伝承芸能の継承と発展を支援することに注力し、これまで様々な事業を展開してきました。今回の特集では、姜尚中館長が劇場の立場から、熊本の伝承芸能の世界で活躍する担い手たちにインタビュー。伝承芸能のこれからについて、ホンネを交えて語っていただきました。

熊本県立劇場館長
姜尚中


モチベーション

 清和文楽と中江岩戸神楽は、地域の伝承芸能とひとくくりにできないほど違うものですが、どこかで通じているものがあると思います。最初に皆さんが伝承芸能の世界にいるモチベーションについて、聞かせてください。
後藤ひ 2022年に県劇で開催された公演「水と火と木、そして再生の物語」に出演したことで、地元の定期公演のお客さんが増えて。それが、現在のモチベーションにつながっています。
 大樹さんは、ご自宅の近くの神社で神楽が奉納されているのを見て、かっこいいと思ったことがはじめるきっかけだったそうですね。2022年の熊本地震復興祈念「水と火と木、そして再生の物語」の舞台は、モチベーションは上がりましたか?
後藤ひ モチベーションはとても上がりました。
 高良健吾さんや橋本愛さんといった著名な俳優さんと共演しましたね。それによって自分がやっていることが楽しくなるというか。
後藤ひ みんなに自慢できますね。神楽をやっていたから有名人にも会えたよ、とか(笑)。
 劇場の舞台に立つということには、特別な意味がありましたか?

中江岩戸神楽三十三座完全復元徹夜公演
1990年1月27日(土)~28日(日)
熊本県立劇場演劇ホール

後藤ひ 30年以上前には、中江岩戸神楽三十三座完全復元徹夜公演の舞台が、同じ県劇で開催されたので、昔の人たちと同じ舞台でやっていると、感慨深いものがありました。
 大樹さんは、いくつですか?
後藤ひ 26歳です。
 ということは、30年前はまだ生まれていなかったですね(笑)。後藤詩乃さんは、どうですか?
後藤し 私が子どもの頃は、神楽(保存会)に入りたいと思っても、入れるものではなかったので。大人になって、自分の子どもが小学生になって、「神楽をやってみるね」と。そこでやっと神楽に携われるようになりました。神楽を舞うことはないのですが、どんな形でもお手伝いできることがあればと思って。今は、事務局としてこまごまとしたことをやらせてもらっています。
 最初はインナーサークルというか、限られた人たちだけで神楽をやっていて、少しずつ外側から人が入れるようになったというのですね。それは、最近になってからということですか?
後藤ひ 中江岩戸神楽は、波野(旧阿蘇郡波野村)の中江部落の長男しか入れないものだったようです。継承する人が少なくなり、伝統を残すために若者に広げるようになって。僕自身も小学校から中学校まで神楽をやっていましたし、熊本市内に就職が決まった後も、神楽が好きなので続けていますね。
 若者が神楽を舞うことで、新陳代謝できたのですね。清和文楽はどうですか?
岡本 2022年の熊本県芸術文化祭スペシャルステージで「ONE PIECE」とコラボしました。以前は、清和文楽は遠い存在のように周りからも思われていたんですけど、公演をきっかけに若者から上の世代の方まで「楽しかったよ」とお声をいただくようになりました。小学校に教えに行くことがありますが、子どもたちも参加してみたいとか言ってくれて。周りの人たちから近づいてくれていると感じますね。

©尾田栄一郎/集英社
第64回熊本県芸術文化祭スペシャルステージ
ONE PIECE×人形浄瑠璃 清和文楽
超馴鹿船出冬桜
ちょっぱあふなでのふゆざくら
2022年11月5日(土)、6日(日)
熊本県立劇場演劇ホール

 清和文楽の場合は、ご自分の仕事になるわけですよね。伝承芸能であると同時に、それが本職になる。この清和文楽の世界に入る前に、不安はなかったですか?
岡本 不安はありましたね。地元の小学校に通っていた時に私も習ったことがあるのですが、高校の時には、別の仕事を考えるようになりました。清和文楽の求人が出ていた時に、せっかくなら地元に戻って、地元の発展につながることがしたいと。不安もありましたが、「やってみよう」という気持ちでした。
 そうですか。渡辺さんはどうですか? 清和文楽では、三味線と太夫をされているということですが、小さいころから三味線を学んだとかそういう経験があったのですか?
渡辺 実は、そういった経験は全くなくて(笑)。もともとは熊本市内でパティシエをやっていたのですが、タイミングよく清和文楽の里協会職員の募集を見つけました。音楽とかも好きだし、手に職が欲しいなという感じで応募しました。
 それでは、清和文楽で三味線をゼロから学んだということですか?
渡辺 そうです。最初の2年間は研修で兵庫県の淡路島に行かせてもらいました。こちらに帰ってきてからは、自分で練習しています。
 清和文楽は、研修に行くことはインターンシップのようなもので、お給料が出るんですよね。一方で、中江岩戸神楽は保存会なので、衣装などみなさんで維持していくものがいろいろありますね。出費もあると思います。これは保存会の予算で賄われているのですか?
後藤ひ 神楽の衣装は1着20万円近くします。小さなものは自分で買ったりするんですけど、衣装やお面は高価なものです。補助金がおりた時は、その時なにが一番必要なのかみんなで話し合っています。毎年何かひとつは買うようにしています。
 後藤詩乃さんの場合は、お子さんが神楽を学んで、活動されていますが、必要なものはご家族で支えていくという感じですか? あるいは、保存会の方である程度用意されているんですか?
後藤し 小学生、中学生は、基本的なものは保存会からお借りしています。高校に上がったら、白衣は新調しないといけないのかな、と。白衣は自分の肌に身につけるものだし、足袋はどうしても古くなってくるので、自費で準備します。
 そういう点が、清和文楽と神楽の違いでもありますね。伝承芸能の違いもあるんですが、自分たちを支えている基盤が違うというか。

身体表現としての伝承芸能

 ただどちらも日本の代表的な伝承芸能の形を成しています。清和文楽の場合は、人形を動かす人形遣いと、語り手である太夫の三味線もあり、歌舞伎と同じような舞台になっています。一方で神楽の場合は、特別な舞台ではなく、みんなが平場で踊りながら演じている。そういう面も違うと思うのです。身体表現としての伝承芸能について聞いていきたいのですが。清和文楽の岡本さんと渡辺さんは、三味線と太夫が中心なのですね。たまに人形を持つことなどはありますか?
岡本 たまにですが、清和文楽を説明する時に人形を持つことはあります。
 その時どういう感じですか? 三味線と太夫がメインで、たまに人形を持つとなると、ずいぶん違う感じですよね?
岡本 そうですね。たまに「足遣い」のお手伝いをしますが、首(かしら)を持つ「主(おも)遣い」の動きと合わせるので、普段と違う筋肉にきますね(笑)。
 おふたりは三味線の演奏と、太夫の語りで舞台上の人形を引き立たせるという役割だと思います。
渡辺 舞台の袖に三味線と太夫が座っているのですが、「こっちも見てほしい」という気持ちはあります。
 やはり、自分にも目を向けてほしい?
渡辺 そうですね(笑)。向いてほしいというか、たまにお客様でこっちを見られている方もいらっしゃるので、つねに意識して舞台に立つようにはしています。

観客の反応

 大樹さんは「神楽男子」として活動していると聞きましたが。ファンレターとかもらったりしますか?
後藤ひ ファンレターとかはないですけど(笑)。中江岩戸神楽には、若手が6、7人いるので、その若手を目当てにいらっしゃる人も結構います。
 先ほど大樹さんが話していた「水と火と木、そして再生の物語」の舞台ですが、私がこの舞台を見た時は、神楽がものすごく印象深くて。素晴らしくて。大樹さんは、あの舞台で観客席からの反応というのは自分で感じましたか?

熊本地震復興祈念
「水と火と木、そして再生の物語」
2022年3月12日(土)
熊本県立劇場演劇ホール

後藤ひ 反応を感じたのは、舞台を終えた後からです。SNSとかで検索して、火のイメージのところが強い、という反応が多くて。
 演じている最中は無我夢中という感じ?
後藤ひ 舞台上にライトも当たっているので、あんまり観客の顔が見えなかったです。終わった後で、反応してくださる人たちが多くいて、よかったなと思いました。
 神楽の場合は、身体的なパフォーマンスなので、全身運動みたいになると思いますが、今まで連続で一番長くやったのはどれくらいですか?
後藤ひ ひとつの演目で40分から50分かかるものもあります。ずっと動きっぱなしです。
 そんなに動きっぱなしならくたくたですね。中江岩戸神楽のおふたりは、別に仕事や家庭を持っていて、神楽に携わっている。神楽を生業にしているわけではないですが、尋常じゃないほど熱があると思います。ご自身を突き動かしているものは、なんでしょうか。
後藤し 熊本の他の地域で中江岩戸神楽があまり知られていないので。県劇で舞えることは、そういう意味ですごく意味があることだと思っています。こういうところで舞うことで、モチベーションも上がります。
 大樹さんは神楽の世界に入られて何年くらいですか?
後藤ひ トータルで12年でしょうか。小学校3年生から中学校2年生くらいまでと、社会人になってから再開して今に至ります。
 これからも続けようと思っていますか。
後藤ひ そうですね。神楽のことが好きですし、これからもっと広まることを願って、続けていきたいという気持ちはあります。
 伝承芸能に携わる4人のお話を聞いていて、ひとつ共通していたのは、伝道師的役割でもっと広めたい、知ってもらいたいという気持ちですね。

普段の稽古

 普段の稽古について聞きたいのですが、週に何回くらい?
後藤ひ 毎週土曜日に集まって練習しています。週1は必ず練習するようにしています。 参加するメンバーが納得できるまで練習するので、夜7時から11時くらいまでする時もあります。
 詩乃さんのお子さんが練習するのは1週間にどれくらいですか?
後藤し 小学校の子ども神楽は毎週水曜日と、神楽男子の皆さんに習う時は土曜日にも。中学校は週1です。
 清和文楽はどうですか? 毎日練習ですか?
渡辺 私たちには、物産館の仕事や、事務仕事など、それぞれに自分の仕事があって。その仕事が終わった後に稽古しています。
 プレイヤーは演じるだけではなく、PR活動もやらざるを得ないというか(笑)。
渡辺 そうですね(笑)、私は物産館でお饅頭づくりをやっています。
岡本 私は、事務です。
 そもそも地域の伝承芸能は、専門のプレイヤーがいたわけではなく、農作業や仕事の傍らでやっていた歴史があるわけですよね。ふだんのお仕事をしながら、清和文楽のプレイヤーとして三味線や太夫をやられて。多機能的なことをやっていかなければいけないのですね。
渡辺 稽古も物産館の仕事も中途半端になってしまわないように。稽古ができなかった時には、自宅に帰って稽古をしています。

互いのイメージ

 それからもう一点、神楽をやっているおふたりから見た清和文楽のイメージと、清和文楽をやっていらっしゃるおふたりから見た神楽のイメージを聞いてみたいです。伝承芸能は、ひとくくりにされがちですが、それぞれの芸能は、それぞれの地域の象徴になっていて、そこに価値がある、と思います。
渡辺 「水と火と木、そして再生の物語」の舞台は、拝見しました。 中江岩戸神楽をその時初めて観たのですが、迫力がすごくて。シビれました(笑)。かっこよかったです。
岡本 数年前に清和文楽館で、ほかの地域の神楽を上演したことがあって。その時に初めて見たのですが、厳かな、静かなイメージでした。ですが、やはりまだ知名度がないかなと。清和文楽もそうなんですけど。
 神楽のおふたりはどうですか? 清和文楽というと、特定のイメージがあったと思うのですが。今日話してみて、どういうイメージを持たれましたか?
後藤ひ 清和文楽の人形を今日初めて持たせていただいて、びっくりしました。そもそもこんなに重たいものだと思っていなかったので。
 大樹さんでも、10キロある人形を持つとなると大変でしょ? これを持って、40分、50分も動かすと。これをダンベルだと考えると、本当に大変なエネルギーが必要だと。詩乃さんは、今まで清和文楽を見たことはありますか?
後藤し テレビのドキュメンタリーとか、特集で観たことはありました。
 これまで中江岩戸神楽と清和文楽の交流がなかったというのが驚きでしたね。今後、コラボしたり、一緒の舞台をつくったり。やってみたいこととかありますか?
後藤ひ それが実現できたら、いろんな意味でいい刺激になると思います。


抱負

 伝統という言葉は英語でいうとイノベーションの反対語になります。今の時代は、デジタル化が進んで、なんでもイノベーションしていかないといけない、革新ということは常に新しくなければいけないと。一方で伝統というのは、ひとつの原型があって、それをキープしていくというか。だから、保存会という言葉を使うわけですよね。伝承芸能の世界を知ることによって、デジタル化された世界に何が抜け落ちていくか、分かってくるんじゃないかと私は思っているんです。皆さんは、若いのにこういう世界に入ったね、と感嘆されることもあるとは思うのですが。実はそうではなく、この世界がかっこいいからやってみようという思いもあると思います。自分が携わっている伝承芸能の現場で、今後も持続させつつ多くの人に知ってもらうために、抱負をおひとりずつ聞かせてください。

清和文楽
(一財)清和文楽の里協会
渡辺 奈津子さん

渡辺 今、小学校に指導に行っています。清和文楽も後継者不足が問題視されているので、社会科見学で熊本市内の学校から見学に来館してもらっています。そういう子どもたちに清和文楽の楽しさだったり、おもしろさだったり伝えていきたい。難しい伝統的な演目は残しつつ、今の時代に合った演目をやっていくことで、清和文楽は難しくない、楽しいものだというのも発信していきたい。SNSの活用も大事だと思いますし、今のやり方と昔のやり方を混ぜながら発信していきたいです。
 それは県劇にとっても参考になるね(笑)。

清和文楽
(一財)清和文楽の里協会
岡本 翔(しょう)さん

岡本 そうですね。なかなか難しい演目が多いと思われていたりしますが、清和文楽はもともと娯楽から生まれたもの。2022年の「ONE PIECE」とのコラボもそうですが、清和文楽に入りやすい新作もできているので、若い人たちにも堅苦しくなく、楽しんでもらえるものをつくっていきたいと思います。

中江岩戸神楽
中江岩戸神楽保存会
後藤 大樹(ひろき)さん

後藤ひ 神楽も堅苦しいイメージを持たれがちなんですけど、若い人たちが入ることによって、同世代にもっと広まればいいな、と思います。中江岩戸神楽は270年の歴史があるんですけど、太鼓の打ち方や舞い方は変えずに、現代に合った方法で広められたらいいのかなと思います。

中江岩戸神楽
中江岩戸神楽保存会
後藤 詩乃(しの)さん

後藤し 子ども神楽は、小学校1年生から6年生までありますが、それでも人が足りなくて。だんだん子どもたちだけで稽古することも厳しくなっています。卒業生がどれだけ保存会にきてくれるか分からないですしね。SNSで発信していますが、ちっちゃい子から幅広い年齢層に見てもらえたらな、と。インスタで発信すると、熊本市内の子から連絡がきたりします。それで神楽の練習を見に来てくれたり。そんなちょっとしたことでも、どんどん広まっていってくれたら。神楽に興味を持つきっかけとなってくれたらいいな、と思います。

 

 今回4人の方のお話を聞いていて、伝承芸能の裾野を広めていかないといけないと実感しました。広まれば、知る人も増えてくるし。広めるためには、いろいろなやり方がありますしね。できれば、県劇がそれに加わって、大きなイベントを仕掛けるなど、皆さんの活動を知ってもらう場をつくりたいと思います。今日はおもしろい視点でお話ができてよかったです。楽しい時間でした。ありがとうございました。

 

 

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