2023.06.15
県劇スタッフリレーコラム№17
モーリス・ラヴェル作曲
「ボレロ」
数年前からジョギングを始めた。特段理由はないが、段差もないところで躓くようになったことか。事業グループに所属していた頃、公演がある日は1日で一万歩を超えることも多く、劇場内を10キロ近く走り回っていた。3年前に総務に異動し、断然デスクワークが増え、体力・筋力が明らかに低下しているため、運動不足解消となっている。学生の頃、長距離走は苦手だったものの、今は競争することもないので、気軽に走っている。
最初は3キロがやっとだったが、5キロ、7キロと徐々に延ばし10キロは走れるようになった。そして好きな音楽を聴きながら走ると足取りも軽い。
ある雨上がりの7月、気温も高くなく心地よい風が吹いていたので、熊本城まで走ることにした。半分ほどきたところで、イヤフォンからラヴェルの「ボレロ」が流れてきた。この曲を知るきっかけはベジャール振付、シルヴィ・ギエムが踊る映像である。一切無駄のない肉体から発せられるパワーとオーラは、楽曲と一体化していて心が震えた。残り3キロ弱、曲が終わるタイミングで二の丸公園に辿り着きそうだ。
冒頭のスネアドラムは、周りの車の音に消されて全く聴き取れない。それでも徐々にメロディーとリズムの勢いが増し、曲に呼応するように心拍数もあがってきた。
最後の坂を駆け上がったところで曲もクライマックスを迎えた。目の前に天守閣、そしてそこにはきれいな虹がかかっていた。こんなご褒美があるんだと感動し、暫くの間眺めていた。「ボレロ」はよく聴いているが、今ではギエムが踊る映像より、熊本城が脳裏に浮かぶようになった。
その曲を聞くと当時の映像や感情が甦る、という経験はよくあることだ。大好きだった曲に素敵な記憶が追加された。ジョギングは楽しい。熊本城マラソンも、東京マラソンも、ホノルルマラソンも、そう遠くない目標にできる気がしてきた。
事務局次長
宮家 郁子[みやけ いくこ]