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2022.09.15

県劇スタッフリレーコラム№13

つながり

小さい頃、私はとても泣く子どもだった。小学校の入学式でも泣いたと思う。親は心配しただろうが、担任だった緒方先生の温かいサポートにより、元気な子どもになった。先生には私より少し年上の娘さんがいらっしゃるので、当時は半分母親のような気持ちで接してくれていたのではないかと思う。先生とは年賀状のやり取りが続き、大人になってからはたまに先生を訪問してお喋りをする間柄になっていた。

数年前、先生の学校で子どもたちに話をする機会をいただいた。私は大学時代、法律を学ぶ中で教授と共にタイを10日間ほど訪問し、子どもの人身売買について現地の関係機関で話を聞いたことがある。平和な国で育ってきた私にとっては強烈な体験で、特に山岳民族の村で子どもたちと過ごした時間は私の価値観を大きく変えた。この話を聞いた緒方先生から「その貴重な経験を子どもたちの前で話してくれないか」と依頼されたのだった。おそらく先生は、子どもたちにいろんな世界があることを知ってもらいたい思いに加え、人前でこの話をすることでもう一歩私が成長できるのでは、という気持ちもあったのではないかと思う。いくつになっても先生は私の先生で、半分お母さんなのだと思った。

冒頭で書いた年の近い先生の娘さんとは、この季刊誌ほわいえの2020年夏号で表紙を飾ったヴァイオリニストの緒方愛子さんである。愛子さんは現在広島交響楽団に所属されているが、県立劇場アウトリーチ事業の登録アーティストとしても2014年度から活躍されている。家が近く、たまたま同じ小学校だった愛子さん。年月を経て大人になった私たちは、偶然が重なり劇場で再会した。

県立劇場は12月に40周年を迎える。その記念企画のひとつで、愛子さんと私は一緒に仕事をすることになった。緒方先生と、そして愛子さんと出会って25年。先生との変わらない関係も、愛子さんとの進化した関係もどちらも大切な宝物である。

県劇のこの40年間も、たくさんの出会いを紡いできたに違いない。これからも県内文化の、そして人々のつながりの拠点となるような場所でありたいと願っている。

事業グループ
前川 史[まえかわ ふみ]

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