2022.06.15
特集「利用者座談会『舞台のミライを語ろう』」
熊本県立劇場の40年の歴史は、一つひとつの公演、一人ひとりの感動の積み重ね。そして、熊本で活動する文化芸術団体と一緒に歩んできた歴史でもあります。2020(令和2)年から続く新型コロナウイルス感染症の広がりは、文化芸術団体にとっても公演の中止や延期を余儀なくされ、活動に制限がかかるなど大きな影響がありましたが、今ポストコロナ時代に向けた芸術文化のあり方を考えるステージへと変わりつつあります。今回の特集では、熊本県立劇場の利用者である文化芸術団体の方たちに、コロナ禍を経て感じること、これからの舞台のミライについて語り合っていただきました。
コロナ禍が芸術文化に影響したこと
池田美樹:演劇界では、活動はずいぶん通常に戻りつつあるような印象ですが、集客についてはまだまだ。ただ「コロナ禍で劇団って大変でしょ?」と言われるのがもうイヤになっていて、若手といっしょに積極的に活動しています。
上村大志:大学入学のタイミングがコロナが広がりはじめた時期なので、演奏活動自体が制限されているのがスタンダード。以前は演奏旅行があったり、地域との交流が盛んだったと聞きますが、それができないのが残念です。
伊沢由紀惠:企画していた舞台や公演の中止・延期はもちろんですが、マスク着用での練習の影響が大きいですね。子どもたちに指導する際、表情が見えない。バレエはセリフがないので、顔の表情が命。教える側も目の表情でしっかり伝えるように心がけてはいますが。
松本強一:それは合唱の指導でも同じです。最近では合唱用に下が開いているマスクがありますが、指導する際には口の動きを見たいのです。それが、マスクによって見ることができません。
池田:合唱は口の動きがとても大事ですからね。新規の団員や生徒集めについてはどうですか?
上村:大学って、入学式で新入生に対して勧誘するじゃないですか。映画とかドラマのシーンでしか知らないですが(笑)。私はそれを経験していないので新入部員の勧誘の方法がわかりません。今はチラシひとつ配るにも、大学の許可が必要です。
比嘉渚:私は大学のサークル活動状況を知らず、2年次になって入部しました。今の新入生勧誘は、TwitterなどのSNSで。歓送迎会はzoomです。
松本:合唱の場合は、練習する時に窓を開けて、外に聞こえるくらいの大きな声で歌って、新入生を勧誘したものです。うなぎ屋の煙みたいに「ここに合唱部があるよ」と知らせるわけですね。それが今はやりにくい。
伊沢:バレエ教室は、通常のレッスン以外で体験レッスンを設けるのですが、その体験レッスンを担当する指導者が不安がるのです。体験レッスンは全く知らない人たちが集まる場なので、そこで指導するのが不安だ、と。ふだんのレッスンはつきあいが長い生徒たちで、安心できるからですね。その不安の壁を乗り越えるまでは、新しい生徒募集をかけられないのが現状です。
これからの舞台は、″ワクワクする″方向へ
伊沢:ただそんな中でも、小さな舞台をご家族だけに向けて企画開催したんです。それが保護者から喜ばれて。「バレエを習わせてよかった」という言葉をもらい、みんなが前向きになれる舞台でした。
池田:観客のいる公演は、それがありますよね。県劇には自主文化事業があって、これがめちゃくちゃ楽しい。ジャンルを超えたコラボによって刺激を受けることもあるし。いろんなジャンルの方の、体の動かし方の工夫や、違う部分で勉強になることもある。違いもあれば、根っこがいっしょのこともあって、その人たちとひとつの作品をつくるのがすごくいい。
上村:それ、わかります。10年以上陸上短距離をやっていたので、楽器を演奏する時の体の動かし方に取り入れたり。違う分野だからこそ活かせることがあったりしますね。
池田:この筋肉は短距離の筋肉だったんだ(笑)。もし、今後合同公演が実現できたら、上村くんを最初に演劇にひっぱりたいわ。
伊沢:体幹しっかりして、筋肉があるから、ここで踊って、とか(笑)。
池田:コラボするって、楽しいですよね。
伊沢:日舞や邦楽と一緒にすることがあって、出演する子どもたちにとっても「こんな世界があるんだ」と一緒にできることが楽しいわけです。オーケストラの生演奏に合わせて踊ることでワクワクすることもある。ジャンルが違う人たちとやることで達成感はすごく大きかった。今はそれができないのが寂しいけれど。県劇が企画を出してくれるから、がんばろうという気持ちになれる。
松本:芸術文化はなんらかの形でつながっていますよね。
池田:大勢でひとつの舞台をつくるのは、めちゃくちゃ揉める。裏の自転車置き場で語られるのは、だいたい愚痴。だけど、本番が終わると、それがひっくり返る。
比嘉:多くのジャンルのコラボは、やっている側だけじゃなく、観客も刺激を受けます。私はもともとボーカロイドが大好きでニコニコ動画を見てましたが、歌舞伎とコラボする企画があって、それがきっかけで歌舞伎に興味をもちました。芸術文化には興味ない人だって、敷居が高くて劇場に行く機会がない人だって、コラボで自分に興味があるものがあれば、観に行ってみようかと思う人がいると思うので、そういうイベントがあったらいいな、と。
池田:以前、県劇の光庭横で「ケンゲキアットライブ」というイベントが開催されていて、通りがかりの人が立ち寄ったりして、生の芸術文化にふれるきっかけになっていました。大学生が県劇事務所に入り浸ったりしていた。今からは、劇場と若手がつながるシカケをつくっていければ、と。
伊沢:県劇は野外公演のような雰囲気も味わえそうなので、子どもたちの発表会みたいなこともできるし。
池田:アーティストそれぞれが自分が持っているものを持ち寄って、みんなで発表できるようなお祭りがあったらいいですね。
上村:少しずつつまみ食いできるような体験会などが開けたら、子どもたちにとっていろんな芸術にふれられる機会になりますね。スマホで聞くよりも、生の音楽を体感できるきっかけ。床の音の揺れや、空気の振動とか。生の音楽にふれた時に感動したことを、今でも覚えています。それを子どもたちに伝えたい。
松本:合唱団の中で歌ってもらう体験だったり。普段の公演では体験できないことだからおもしろそうですね。
上村:お祭りといえば、文化祭の時に「ツンデレラ」というパロディ劇をやったことがあって。陸上で鍛えたバッキバキの筋肉で、女の子の役やりましたね。オーケストラとは全く関係ないですが。
池田:それでいこう!次の自主文化事業の企画(笑)。
members
松本 強一[まつもと きょういち]
デメーテル男声合唱団常任指揮者
比嘉 渚[ひが なぎさ]
熊本大学フィルハーモニーオーケストラ
伊沢 由紀惠[いざわ ゆきえ]
エコール・ド・バレエ・クラシック主宰
上村 大志[かみむら たいし]
熊本大学フィルハーモニーオーケストラ
池田 美樹[いけだ みき]
劇団きらら代表