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2019.06.20

特集『館長インタビュー「劇場」は空間を共有し、人間らしさを味わう「広場」へ』

広場としての劇場は観客が参加し、わかちあう場。

劇場という場所のことをイメージする時、外部と内部が明確にわかれた空間、堅牢な建造物を思い浮かべるものです。その内部でも、パフォーマーと観客が舞台によって明確に線引きされ、観客として訪れている人はそこに鎮座して、舞台を観ているというイメージがあると思います。劇場は芸術の殿堂であり、著名な演奏家や世界的なクラシック演奏、舞台にふれられる場としての役割があります。もちろん、それはニーズがあり、必要なことですが、劇場の中で起きている関係性、イメージを変えていかなければならないという思いもありました。それを伝えていくために「広場」という言葉が出てきました。

広場というものは、遡ると歴史があるもので、ヨーロッパでは広場を中心に教会があり、市庁舎があり、そしてそこにマーケットが開かれ、芸術を楽しむ場があり、人が集まり、その場にあるものを共有する空間です。劇場を広場と定義することで、演じている人、そして観客が同じ空間で、明確な線引きがなく、あいまいな関係性でつながり、そこにいる人たち全員が〝参加〟する空間であることをわかりやすく提示できれば、と考えました。参加型の演劇空間でもあり得るし、熊本地震後に開催している「県劇盆踊り」もそうです。ただ広場といっても固定的な概念ではなく、その場、その場を〝生〟で共有することで生まれるプラスアルファな出来事、つまり同じ公演内容でも、同じ体験を複製できるものではなく、二度と出会えない出来事も含まれます。予想を裏切るもの、予期しなかったこと、偶発的に起きることをエンジョイできるのが、広場そのものではないかと思います。デジタルの技術が進化し、音や映像はライブのような品質で再現できたとしても、その場で生まれる人間らしさを味わうことは、広場としての劇場でしか味わえないことでもあります。


(2018年に開催した「県劇盆踊り」の模様)

建造物から自由に。
劇場が外に出向く広場としての活動。

私が県立劇場館長に就任したその年に熊本地震が起き、それから3年という年月は、県立劇場のスタッフたちにとって、広場としての劇場をある意味繕っていかなければいけない状況でもありました。その中で、震災後に各地域を巡回した「アートキャラバンくまもと」や、スタッフやパフォーマーが外に出てワークショップを開くアウトリーチの事業は特筆すべきことです。アウトリーチの事業は震災前から取り組んでいましたが、劇場に足を運ぶことができない方のために、こちらから出向いていく活動は、まさに移動劇場。劇場という建造物から出て、どんな小さな駐車場であっても劇場の空間を持ち込んだ広場になる経験をしました。スタッフにとっては冒険でしたが、集まってくれた人たちからのフィードバックは、仕事のやりがいにつながったと思います。

熊本は、南北に広く、海も山もあり、歴史的な観点からも多様性を受け入れる風土があります。即興的なにわかをはじめ、さまざまな芸能が盛んですが、それを熊本に住んでいる人が気づいていないようにも感じています。県立劇場としての次のステップは、私たちの足もとにあるお宝を発見していくような取り組みに注力していきたいと考えています。地域社会の中で失われつつあるローカルなものにスポットをあて、舞台上で披露したり、さまざまな公共施設と連携しながら、有形無形関わらず、熊本にしかないものを形として残していくような取り組みです。それと同時に、インバウンドにも注目し、アジアからの来訪者に向けた魅力的なプログラムの発信にも力を入れていきたい。県民のための劇場であると同時に、外から来た人も楽しめる広場であってほしいのです。そして、青少年の育成を主軸に、音楽、演劇などのジャンルを超え、複合的なアートが共鳴しあうような空間にするために、震災から5年目にあたる2021年には区切りとしての大きなイベントを計画しています。その後には、県劇の40周年も控えています。熊本県のさまざまなネットワークが結集できる広場として、県立劇場の活動を展開していきます。


(第31回熊本県高等学校総合文化祭の会場準備にて)

熊本県立劇場 館長
姜 尚中【かんさんじゅん】

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