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2025.12.20
特集 熊本県芸術文化祭オープニングステージ はじまり はじまり~県劇舞台づくり学校~

Special feature 特集
力をあわせて、ひとつの作品をつくりあげる
終わった後の達成感まで、みんなでクリエイション!
この夏、「舞台づくり学校」と題し、こどもや学生たちがダンス作品をつくりあげるプロジェクトに挑みました。公募した学生が音楽や衣裳、映像をつくり、こどもたちが自ら踊るダンスを振り付けたこの作品。2025年熊本県芸術文化祭のオープニングステージは、その成果発表の舞台となりました。会場を満たす熱量まで誰かに伝えたくなるような、そんなすばらしい時間となった今回の公演。そのすべてをここで紹介することはできませんが、公演レポートの、はじまり はじまりです。
第67回熊本県芸術文化祭オープニングステージ
はじまり はじまり~県劇舞台づくり学校~
2025年9月21日(日)熊本県立劇場 演劇ホール
創作って楽しい
それが舞台のあちこちにあふれていた

舞台の幕があがる前の、ホール内に流れるアナウンス。そこから作品ははじまっていました。観劇中の注意事項をアナウンスするのは、パフォーマーのこどもたち。「携帯の電源はオフでお願いします。夢から覚めちゃいます」というちょっと茶目っ気のあるコメントを交えながら、これからはじまる夢の世界に案内する粋な演出が観客の心をまずグッと惹きつけました。続いてはじまるオープニングムービーでは、普段はみることができない創作の裏側をみなさんにご覧いただきました。
動画が終わると、いよいよ開演。オープニングでは県立劇場おなじみの開演のチャイムの音から新しい音が生まれていきます。この音楽に背中を押されるように客席から登場したのはこどもパフォーマーたち。一人ひとりがステージ上をめいっぱいつかって踊り、会場全体が期待感に包まれた瞬間でした。

6月の開校式からはじまり、約4カ月の間準備を重ねてきた今回の芸術文化祭オープニングステージは、新井良二さんの絵本『はじまり はじまり』を原案に、創作ダンスと映像、演劇を組み合わせたオリジナルの舞台。こどもパフォーマー18人と学生クリエイター23人が主役となってつくりあげました。創作活動を咤激励し、支えてきたのはダンスカンパニー「プロジェクト大山」の古家優里さんをはじめ、音楽セクションは武田直之さん、衣裳はよこしまちよこさん、映像は志柿聖さん、Hub.craft、大迫旭洋さんといった、各分野のプロとして活動する先生たちです。特別ゲストとして俳優、演出家などマルチな活動をする小林顕作さんが加わり、作品を盛り上げました。


それぞれのパートの見せ場は、随所に詰め込まれていました。「ラーメン」「だご汁」「タイピーエン」の3つのグループにわかれて、熊本の好きな食べ物を表現したこどもたち。ソロパートでは自分で振り付けたダンスを大きなステージ上から客席にむけて届けます。「いただきます」という元気な声でこどもたちのダンスシーンが終わると、客席からは大きな拍手が送られました。

学生クリエイターたちのクリエイションも舞台を支えました。映像セクションの作品は、江津湖を舞台につくられた「風」が語りかける記憶のものがたり。映像制作に加え、ナレーションも学生が担当し、どこか哲学的な世界観が伝わってきました。音楽セクションと衣裳セクションの見せ場となったのは、「プロジェクト大山」のダンスシーンと加藤清正などが登場する演劇シーン。音楽と衣裳のセクションが協力、学生クリエイターたちは自信が表現したいことに挑戦しながら、舞台上での機能性や作品のクオリティを保つという課題に取り組んできました。自分たちの創り上げた作品が、舞台上からお客様に届く瞬間を、学生クリエイターたちは客席から息をのみながら、そっと見守っていました。


こどもたちや学生たちの作品を、まるで接着剤のようにつなぎあわせ、夢の世界に仕立てるのが、マクラさん役で登場した小林顕作さんです。パジャマ姿でふとんに入り、絵本の朗読でものがたりを紡いでいきます。途中、観客とかけあいでつくるマクラさんの歌謡ショーなどが入り、4カ月かけて準備してきた集大成が、フィナーレを迎えました。

本番の幕があがれば、あっという間にすぎてしまう1時間ちょっとの舞台。それをつくりあげるために、どれだけ時間をかけ、知恵をしぼり、対話をして、練習を重ねて準備しているのか。たった一度限りのわずかな時間で、観ている人たちをどれだけ楽しませ、記憶に深く刻まれる公演を提供できるのか。パフォーマーとしてその舞台に立ったこどもたち、裏方として舞台づくりに力を尽くした学生クリエイターたちは、ほかでは決して味わえない、この先何度でも咀嚼して思い出したくなるような経験をしたことでしょう。

閉校式がこれからの創作活動の第一歩になる
芸文祭のオープニングステージのプロジェクト『はじまり はじまり~県劇舞台づくり学校~』は、青森県八戸市「八戸ポータルミュージアムはっち」で実施された舞台づくり学校を参考に企画。「はっち」の舞台づくり学校でも実施されたこどもパフォーマーたちのダンスのクリエイションに加え、県立劇場では、音楽、衣裳、映像まで、舞台づくりそのものに学生のクリエイターが取り組みました。最終的にどんな作品に仕上がるのか、手探りで進められたプロジェクトでしたが、公演を終えた後のこどもパフォーマー、学生クリエイターのそれぞれの顔に、なんともいえない充足感と達成感が滲み出ていました。舞台の幕がおりた後、その舞台上で行われたのが、修了証を授与する閉校式。お客様にも余韻を共有するため、この様子を客席から自由にご覧いただけるようにしました。舞台を堪能した多くの観客も残ったまま閉校式を”観劇”。閉校式までがひとつの作品となり、参加者や観客一人ひとりの心に深く刻み込まれました。



閉校式での修了証の授与には、それぞれのパートの先生たちが一人ひとりの名前を呼び、修了証を手渡し。これまでの振り返りとともに先生からコメントが寄せられました。
■各セクションの先生のコメント
音楽の先生:武田直之
私自身、自問自答ながら取り組み、みんなのおかげで先生になれたと思っています。今回の企画に飛び込んだように、これからもいろんなことにチャレンジしてほしいです。
衣裳の先生:よこしまちよこ
衣裳セクションには定員5名のところ9名の応募があり、悩んだ末全員参加してもらいました。学生たちが自ら考え、衣裳づくりに取り組んだことは貴重な経験になったと思います。
映像の先生:志柿聖、Hub.craft、大迫旭洋
思いをどう映像にのせられるかをテーマにして取り組みました。今回のプロジェクトで楽しいと思ったこと、ワクワクした経験を糧にしてほしいです。
■芸文祭オープニングステージを終えて

総合演出:古家優里(プロジェクト大山)
こどもたちと関わるときは、言葉で伝えようとしても伝わらない。全力でぶつかっていかないと。だからエネルギーとエネルギーのぶつかりあいの日々でした。チームでなにかをつくること、舞台上で同じ空気を共有できたことは、こどもたちも、学生クリエイターたちも素晴らしい体験になったと思います。音楽、衣裳、映像まで学生クリエイターを巻き込むプロジェクトは今回が初めてで、なにが起きるのか想像できていませんでしたが、どんなものでも夢の世界が包み込んでくれて、それが絵本「はじまり はじまり」の強さでした。今回の体験で人と人のつながり、仲間といっしょにつくることの楽しさ、大事さを心に刻んでほしいと思います。またこのようなプロジェクトがあればやりたいので、県立劇場の方たちにも期待しています(笑)。
こどもパフォーマー:小川衣紗(いすず)さん(小学4年生)
ダンスを習っているからそれがきっかけで応募しました。踊りで表現したり、自分の衣裳をつくったりする作業がとても楽しかった。当日は、オフロスキー(小林顕作さん)にも会えてよかった!
音楽セクション:後田瑞穂さん(大学2年生)
インスタで偶然見つけた舞台づくりのクリエイター募集で、一歩踏み出してほんとうによかった。みんなでつくりあげる経験と、それが完成した時の達成感といったら、言葉にできないくらいです。
衣裳セクション:薬師寺心暖(こはる)さん(専門学校1年生)
専門学校で服飾のことを学ぶうちに舞台衣装に興味を持つようになりました。舞台上で衣裳がどう映えるか、動きによってどう変化するのか、考えながらつくる作業は楽しく、当日はそれを観て感動してもらえるおもしろさを知りました。
映像セクション:塚本瑠花さん(高校2年生)
将来は舞台や映像の美術方面に行きたいと考えていたので、楽しそう、と思って参加しました。映像の絵コンテづくりから監督、そして声あてまで担当して、これまで17年間生きていて、一番ワクワクした経験でした。
熊本県芸術文化祭について
民間と行政が連携して取り組む、県下最大の文化の祭典。ロゴは「芸」をモチーフにシンボル化。1つの作品が波のように広がり、多様な表現が集積・拡散し、心を揺さぶり、多くの人に広がっていく芸術の力を表現している。
オープニングステージはその幕開けを飾る県民参加の創作舞台で、2006年から熊本県立劇場が制作している。
※芸文祭のロゴが、「日本タイポグラフィ年鑑(JAPAN TYPOGRAPHY ANNUAL 2026)」にて部門別ベストワークを受賞しました!
https://annual.typography.or.jp/31123/




