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2020.06.20

寄稿『創造をとめない、みんながつながる広場「県劇」』

創造をとめない、みんながつながる広場「県劇」

全世界の人々が新型コロナウイルス感染症と闘っている。ここ熊本では、「4年前に起きた熊本地震の時と同じように」という人もいれば、「あの時とは違っている」という人もいる。感染症と災害は似ている部分もあれば、正反対のことを強いられることもある。その一つが「集う」ということだろう。つながりは、集うことから得られる宝物だ。

私は、平成30年度より(公財)熊本県立劇場文化事業評価委員会の委員長を務めている。きっかけは、熊本地震だった。益城町の復興を支援するために設置された熊本大学ましきラボの活動として、中高生や若者が主体的に復興まちづくりに関わる方法を模索する中で、私は県劇で働いている職員さんに4人出会った。全く違う場で出会ったのに、それぞれに県劇のすばらしさ、アートの持つ力を僕に教えて下さった。そして、そんなつながりのおかげで、ついには憧れだった平田オリザさんを益城町にお招きすることができた。

2017318日に益城町にて行われた『平田オリザさんと〝かたる〟~小さなマチの新しい未来~』というトークセッションにて、オリザさんは「二つの風」という話をされた。風化と風評、正反対の「二つの風」を東北にて感じたオリザさんが、共通の物語として震災を体験した子ども達の誰もが活躍できる社会を、本気の大人たちが創っていかねば、という力強いエールだった。

私は、オリザさんの『新しい広場をつくる―市民芸術概論綱要』を読み、「誰人もみな芸術家たる感受をなせ」、「文化による社会包摂」という考え方に共感した。地域固有の歴史や文化、風景を規範としたまちづくりのお手伝いをしている私は、人々が集う広場こそ地域文化の源泉であると考えてきた。そして県劇の文化事業評価委員会に入った後に、姜尚中館長が「みんなの広場」を標榜しておられることを知った。評価委員会で、皆さんと議論しながら、私がいつも思い浮かべる理想の県劇の姿は、観客も職員も、集う人々がみな生き生きと輝き、歴史や文化を味わい、新しい未来を創る広場の姿である。

創造をとめない。熊本地震の時は、現場にアーティストや職員の方々が出向き、創造的活動を届けた。集うことができないコロナ禍で、私たちにできる創造的活動とは何だろう?オンラインの交流活動でもいい、アマビエ様のような妖怪に登場してもらってもいい。熊本地震から学んだ多くのことを、新型コロナウイルス感染症対策にも活かすために、つながりを生み出す文化や芸術の果たす役割は大きい。広場では、皆が演者であり、観客である。集うことはできなくても、広場でつながることはできる。

熊本大学熊本創生推進機構
准教授 田中 尚人

 

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