2022.06.15
自主事業ハイライト ホワイエサロンコンサートvol.1 有島京&伊藤悠貴デュオリサイタル
一期一会の出会いが生んだ やさしさに包まれた演奏会
5月21日土曜日 コンサートホールホワイエ
天井まで届く窓の向こうには、新緑萌える木々が茂り、屋内にいながら外の雰囲気を感じることができるコンサートホールホワイエ。ここで、熊本県立劇場文化事業・ホワイエサロンコンサートの1回目が開催されました。出演は、人吉市出身のピアニスト・有島京さんと国内外で活躍するチェリスト・伊藤悠貴さん。初共演とは思えないほど息のあった演奏が、昼下がりの微睡の時間、心を温かく、そして豊かにしてくれました。
窓際をステージにし、200席を設けた今回のコンサート。客席から少し見上げたステージに立つふたりのアーティストは、窓いっぱいの緑を背に演奏され、木々がまるで曲に合わせてリズムをとっているかのよう。有島さんがソロで演奏したリストの「エステ荘の噴水」は、水が豊かな熊本と緑に包まれたホワイエの雰囲気に合わせて選曲されたものでした。この日は、カラッと晴れた初夏の陽気。時間の経過と共に、日の差し具合も変わり、木々の色合いも変わっていきます。これらの景色とアーティストとの共演も、まさにホワイエの魅力なのです。
さらに、コンサートホールとは大きく異なるのが、アーティストとの距離感。ふたりの息遣い、楽譜をめくる音を感じ、ピアノや弦にふれる繊細な指先の動きを目にすることができ、まさに五感で堪能するコンサート。観客のみなさん、一曲一曲、どんどんとお二人の世界に引き込まれていきます。それだけでも感動なのですが、驚くのが音の感じ方。小スペースながら天井が高いホワイエでは、音を浴びているような感覚になります。ピアノで水を表現する場面では、どこかで滴が落ちていると錯覚するほど。有島さん、伊藤さんの奏でるピアノとチェロの音色に包まれながら、あっという間の1時間を過ごしました。
県立劇場では、2021(令和3)年4月より新しい施設の使用区分を設け、ホールの部分利用をスタートし、練習や小規模公演など、多様な使い方ができるようになりました。その魅力を体感していただくために企画したのが、この「ホワイエサロンコンサート」です。今回を皮切りに、次回は8月27日に尺八奏者の藤原道山さん、ピアニストの青山政憲さんのコンサートが控え、その後もさまざまなアーティストをお迎えした企画を計画しています。
Artist comment
コンサートホールでの演奏は何度も経験していたのですが、ホワイエでの演奏は初めて。スタインウェイも古いものなので、温かみもキラキラとした輝きも表現できました。さらに、会場の音の響きも心地よかったです。そして、距離感がいい。私は、お客様の表情が見えて、呼吸を感じることができて、一緒に演奏会をつくり上げることのできるホワイエが好きです。音楽はひとりでも成立するものですが、ネット社会でどこでも簡単にダウンロードできる時代、さらにコロナ禍で集えなくなり、より演奏家の意義を考えるようになりました。窓いっぱいに見える新緑などの会場の雰囲気、お客様一人ひとりの表情や呼吸、そして私たちの演奏、全てが揃って演奏会が完成すると思っています。それは、毎回同じではなく、かけがえのない「出会い」によるもの。ここは、それを感じることができる場所です。ずっと続いてほしいです。
ピアニスト 有島京[ありしま みやこ]
人吉市出身。高校卒業後、ポーランドへ留学し、「第17回ショパン国際ピアノコンクール」出場後、ビドゴシチ市長より特別賞を受賞ほか、さまざまな賞を受賞。コロナ禍で活動拠点を人吉に移し、2020年よりサントリーホール室内楽アカデミー第6期フェローとして活動。2022年秋からヨーロッパでの活動を再開予定。